「通訳デビュー!体験記~久保舞菜美」

自己紹介

みなさん、はじめまして。立教大学 異文化コミュニケーション学部3年の久保舞菜美と申します。大学では主に通訳、翻訳を勉強しており、学部の通訳者・翻訳者養成プログラム修了に向けてがんばっています。また学部生、院生が実際の通訳、翻訳のプロジェクトに取り組むサービスラーニング RiCoLaSにも在籍しています。将来はプロの通訳者になることが夢です。

きっかけ

本稿では現場デビューをすることになったきっかけ、どんな準備をしたか、当日感じたこと、そして通訳後の反省、気づきについて書いていきます。

11月の下旬ごろに大学の日本語教育センターからRiCoLaSへ通訳の依頼がありました。日本語教育センターには短期日本語プログラムというものがあり、留学生が約3週間で日本語や日本文化について学びます。今回の依頼はそのプログラムの一部として留学生たちが大学で講義を受け、さらにフィールドトリップに行くため、その通訳をしてほしいとのことでした。私はRiCoLaSに1年生の頃から在籍していますが、コロナ禍であったため残念ながら対面で実際に通訳をする機会には恵まれませんでした。そのため今回の通訳のお話をコーディネーターさんからお聞きした時は、食い気味で「やりたいです」と返事をした記憶があります。それまで大学の授業や区のボランティアで通訳をしたことはありましたが、公の場での通訳の経験はなかったので、とてもワクワクしました。当日は講義の部分を学部生、院生合わせて3人、フィールドトリップを学部生2人で担当しました。私はどちらとも参加したのですが、次の章でどのような準備をしたのかについてお話しします。

準備

 ワクワク、ウキウキしたのも束の間、当日のために準備をしなければいけません。私はまず講義を担当される教授のシラバスを検索しました。しかし授業数があまり多くなく、今回の案件に直接関係するような情報は収穫できませんでした。次にYouTubeにお名前を入れてみたのですが、これも収穫0でした。その次にGoogleで検索しました。すると顔写真、そしてインタビュー記事を見つけられました。顔写真を見たことで当日への緊張がほぐれたとともに、専門の研究領域や担当されている授業の内容について知ることができ、「当日はこんな感じの講義かな?」と少し予想できたのでよかったです。インタビュー記事を読み、スピーカーの先生が歴史に着目されているということを知れたのも大きな収穫でした。

 本番1ヶ月ほど前の時点でスピーカーの先生が参考資料を共有してくださったので、それを読み、プロジェクトメンバー全員で手分けして用語集を作りました。またその2週間後にはスピーカーの先生との打ち合わせがあったため、その時に聞きたい内容を質問集にまとめました。打ち合わせでは当日使用予定のパワーポイントを共有してくださり、講義内容を説明してくださいました。打ち合わせの後、パワーポイントの内容をプロジェクトメンバーそれぞれで確認しました。

 本番2週間ほど前にスピーカーの先生から当日の原稿が届きました。そこから講義の通訳を担当する3名で当日どの部分を訳すのか、役割分担をし、それぞれの担当箇所の原稿を読み込み、用語集と下訳を制作しました。また松下先生に下訳をチェックしていただき、そこでいただいたフィードバックをもとに下訳をブラッシュアップさせました。

 その他の準備として、プロジェクトメンバーの一人とZoomで通訳の練習をしました。具体的にはYouTube上で適当な動画を探し、それを30秒〜1分ほど流し、逐次通訳をし、相手の訳に対して気がついた点を共有しました。

当日

 当日は午前中が講義、午後がフィールドトリップでした。まず講義の通訳をするべく教室に行きました。そこではスタッフの方がプロジェクターのセッティングをされていたのですが、プロジェクターが起動せず、教室を移動するかもしれないと言われました。本番が迫っていて緊張をしていた私は、これから移動する可能性があることを知り、さらに緊張してしまいました。しかし結局プロジェクターは起動し、そのままの教室で講義が行われることになりました。また本番が始まる30分ほど前に会場に着いたので、その時間は用意した下訳を再度読んだり、パワーポイントを確認したりして最後の準備をしました。また原稿の解釈に関して不安な部分があったので、質問をスピーカーの先生にしました。結果的に解釈があっており、急に訳を変更する必要がなかったので安心しました。スピーカーの方に質問ができる時間はとても貴重だと感じました。

 ついに本番が始まりましたが、講義は3つのパートに分けられており、私の担当は2と3のパートでした。そのため1のパートを担当する大学院生お二人の下訳を目で追いながらメモをとり、講義を聞きました。お二人のハキハキとした淀みない通訳を聞き、「私もできる!」と自信がつきました。待ちに待った自分の番が来ましたが、そこでスピーカーの先生が原稿をそっくりそのまま読んでいないことに気がつきました。これは後ほど松下先生からフィードバックをいただいた際に気がついたのですが、グラフを説明する際に、原稿では緑と言っていたところを本番では薄緑と言ったり、オレンジだったところを赤と言ったりなど、原稿通りにお話しされているわけではありませんでした。しかし私はそれに気づかず、用意した下訳をそのまま読んでしまいました。またパワーポイントや原稿にはなかった動画を途中で紹介される場面もあり、通訳の現場では予想外のことがたくさん起こるということを身をもって学びました。そして「先ほどは〜について紹介しましたが」など、私の担当箇所以外でお話しされた内容に言及される場面もあり、自分の担当箇所以外の内容についても確認しておく必要があることを学びました。

ここで講義の際、机上に置いていたものをご紹介します。

1. 原稿、下訳

 下訳に目を通しながら、スピーカーのお話を聞きました

2. メモ帳

 原稿にないことを話された時のメモ、質疑応答の際のメモとして使いました

3. 電子辞書

4. シャーペン、ペン、マーカー

 マーカーは、数字や発音の難しい固有名詞に印をつけるために使いました

 次にフィールドトリップですが、フィールドトリップ自体はほとんど自由行動であまり通訳の出番はありませんでした。しかし見学場所に入る前に急に「館内での注意事項を訳してほしい」や「留学生へ来週の連絡があるため訳してほしい」など、ここでも予想外の場面に遭遇し、通訳者には臨機応変な対応、そして瞬発力が求められるということを学びました。

当日を終えての反省、気づき

準備不足

一言で言うと準備不足を痛感しました。当日スピーカーの先生が使用する予定のパワーポイント、原稿が手元にあったにも関わらず、それを読み込まない状態で下訳を作り、満足してしまったのが反省点です。もしまたこのような通訳をする機会をいただけたら、当たり前かも知れませんが、まずは内容理解を第一優先に取り組みたいと思います。内容を頭に入れた状態で本番に臨むことで、スムーズに臨機応変な対応ができると思いますし、心にも余裕が生まれると思います。

また他の通訳者さんと質疑応答の際の交代の練習を、事前に十分できなかったことも反省すべき点です。加えて1人が通訳をしている間、その他の2人もメモを取るようにしていたのですが、それを見せる練習ができておらず、上手く連携が取れない場面もありました。次回からこのようなことがないよう、ペアやグループで通訳をする際は交代の練習やメモを見せる練習を徹底的にする必要があります。

通訳の現場は予想外づくし

 今回の経験を経て、通訳の現場は予想外づくしであることを身をもって学びました。そのためプロの通訳者になるためには、強い心と柔軟な対応力、そして瞬発力が重要であることに気がつきました。

さいごに

 大学生のうちに貴重な、現場での通訳を経験できたこと、大変うれしく思います。RiCoLaSに通訳の依頼をくださった日本語教育センターのみなさん、プロジェクト全体を通してさまざまなサポートをしてくださった諸橋さん、通訳の技術や倫理規定について指導してくださった松下先生、武田先生、本当にありがとうございました。心から感謝申し上げます。今回の反省点や気づきを生かし、夢である「プロの通訳者になる」ことに少しでも早く近づけるよう、がんばります。


久保舞菜美
立教大学 異文化コミュニケーション学部3年 

英日通訳・翻訳者を目指す大学3年生。大阪府出身。立教大学で通訳・翻訳を勉強中。高校で1年間カナダ留学、大学で半年間イギリス留学を経験。医療通訳(有償ボランティア)の経験あり。趣味はサイクリング、イタリア語、一人旅、スポーツ全般。夢は嵐の二宮和也の通訳をすること。

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