【第11回】通訳留学奮闘記~梨花女子大学校通訳翻訳大学院編~「卒業、できないかもしれない……」
34歳でハングル文字から韓国語学習をスタートさせ40歳を目前に韓国の通訳翻訳大学院(=通大)に入学した私が、「通訳のための海外留学」のリアルな実態をお届けします。
今回はいよいよ間近に迫った卒業試験の話です。
「卒業試験」とは
大学院に通っていることを伝えると、たいてい返ってくるのが「卒論って書くの?」という質問です。
結論から言うと通訳翻訳大学院の修士課程の場合、卒論が必須ではない学校がほとんどです。我が校も卒論は卒業要件となっていません(というより、論文を書くようなカリキュラム自体がありません)。
その代わり避けては通れないのが「卒業試験」。これをパスしない限り卒業が認められません。卒業に必要な科目をすべて履修し一定以上の成績を修めていたとしても、最後の卒業試験に落ちてしまえば残念ながら卒業認定とはならないのです。
一体どんな試験なのか。
通訳翻訳大学院ですので、当然のことながら試験内容も「通訳」と「翻訳」です。韓日通訳専攻の私の場合、同時通訳のAB(韓日)とBA(日韓)、逐次通訳のAB(韓日)とBA(日韓)の計4科目を受験し、すべてに合格する必要があります。
今年の試験日は12月13日(金)。
同期全員がそれぞれ同時通訳ブースに入って、事前に教授が録音した音声を聞きながら同時通訳と逐次通訳をこなします。そしてその結果を元に卒業の可否が決まる……というわけです。
万が一不合格となった場合は修了扱いとなり、冬の卒業式には出られません。半年後の追試にトライし、受かった時点で「卒業」となります。追試が受けられるのは修了から一定期間内(たしか2年だったような)のみ。ちなみに昨年の合格率は50%(!)だったそうです。
韓国語が聞き取れない
そして今、私の卒業に赤信号が灯っています。
こんなことを言うと周りは「またまた〜! きっと大丈夫だよ」と本気にしてくれないのですが、私は(そしておそらく教授も)かなりの危機感を抱いています。
というのも、韓国語がほとんど聞き取れなくなってしまったのです。
2年生の2学期に突入し、いよいよ専門的なテキストを扱うようになってきました。韓国語の場合、専門性が高まれば高まるほど、そして公的な文章になればなるほど増えていくのが漢字由来の熟語です。
もちろん日本語でも熟語が多く使われますが、韓国語はさらにそれが濃縮され非常に密度が高いのです。
例えば日本語なら「米国は日韓両国が安全保障面で協力することを強く望んでいる」となりそうなところを、韓国語は「米国は日韓安保協力を強力に希望する」のように表現する、といった具合です。
文章の長さを見ていただいても分かる通り、同じ内容がより短い時間でサーッと通り過ぎていってしまいます。それが一文で終わるわけではなく、連続してA4用紙1枚分、2枚分……と続くわけです。
そして今、ほとんどのテキストが私の脳内をサーッと通り過ぎていっています。
「意味のかたまり」として脳に届いて口から正しい日本語訳が出てくるまでの間に、次から次へと熟語の波が押し寄せてくるため、処理しきれないままフリーズしてしまうのです。
特に、これまでの人生であまり口から出す機会のなかった「物品役務」とか「非享受利用」といった日本語を何とか正しく発音しようと四苦八苦していると、その間は耳がすっかりシャットダウンされてしまい韓国語が入ってきません。
もちろん聞くことに集中していれば、あるいはノートテーキングしながらであれば問題なく聞き取れるのですが、通訳しながら聞き取ることができない。つまり同時通訳ができない。
ということは卒業もできない。
大ピンチです。どうしよう。
では、どうするか
複数の教授からいただいたアドバイスを総合すると、結局は「練習あるのみ」(やっぱりね!)ということなので、とにかく練習量を増やして慣れていくしかありません。
最近は同期にも協力してもらい、毎朝7時半から熟語たっぷりの韓国語を聞きつつ日本語訳出しの練習(と録音チェック)をしています。
そして授業で扱ったテキストはAI音声データにして、あるいは同期に録音してもらって何度も聞き直し、自分が特にこぼしがちな熟語をリストアップしています。
先輩方には「え、卒業試験を間近に控えたこのタイミングでそのレベル!?」と呆れられるかもしれませんし、実際のところ教授は呆れ果てた表情でしたが(ごめんなさい)今からでもやれることはすべてやってやろうと必死になっているところです。
これ、間に合うのかな……。うーん、でもやるしかない。
* * *
というわけで、残すところわずか1か月となった卒業試験。果たして熟語の聞き取りは攻略できるのか。そして無事卒業することはできるのか。
なかなか絶望的で泣きそうですが、最後まで諦めずに全力で頑張ります。
どうか応援よろしくお願いします。
中村かおり
韓日通訳者を目指すライター。マスメディア業界での記者・編集者生活を経て独立後、2018年1月の初ソウル旅行をきっかけに34歳で韓国語学習をスタートさせる。2020年秋から半年間、韓国・ソウルでの語学研修に参加。2023年3月から梨花女子大学通訳翻訳大学院(修士課程・韓日通訳専攻)にて通訳専門訓練中。