同時通訳グランプリ2018 総評と予選データ
予選通過者については既にお知らせした通りですが、ここに総評と予選データを公開します。
■社会人部門
総評
「十人十色」という言葉がありますが、同じ素材でここまで異なる表現や訳出スタイルが生まれるとは審査チームもなかなか予想できませんでした。正確性はもちろん重要ですが、表現力をどう評価するのかは聞き手の好みも影響するので、審査は容易ではありません。ただし今回に限っては、予選通過者6名は全体的にとても安定しており、聞き手に配慮した訳出で高得点を記録しています。新人離れした実力の方もいました。
他方、緊張からなのか、聞き手にとって不快な荒い鼻息や息遣いが目立った方もいました。予想外の原文を処理しきれずに黙り込んでしまったり、既に破綻している文章を諦めきれずに組み立て続ける方もいました。同時通訳は時期尚早と言わざるを得ない方がいたことは事実です。
もちろん、誰もができない状態から訓練を重ねることで上達していくので、できないことは問題ではありません。残念ながら本選進出がかなわなかった方は、自分のスコア(近日中に通知)とデータの数値を比較し、そして自分の音声ファイルを改めて聞いて復習・反省することで、きっと山の頂に一歩近づけることでしょう。千里の道も一歩から。同時通訳も、まずは自分の実力を冷静に自己評価することから始まるのです。
本選進出を決めた6名の中には、予選でのパフォーマンスを聞く限り、もう現場デビューしていてもおかしくない実力を有する方もいました。現役通訳者で構成された審査チームも唸るレベルです。きっと白熱した本選になることでしょう。
データ
全体の英日平均スコア:65.96点
全体の日英平均スコア:65.62点
全体の合計平均スコア:131.99点
予選通過者の英日平均スコア:76.42点
予選通過者の日英平均スコア:83.33点
予選通過者の合計平均スコア:159.75点
■学生部門
総評
第1回大会ということで、参加者のレベル感についてはまったく想像できなかったのですが、ふたを開けてみると、かなり高レベルの接戦になりました。ぶっつけ本番の同時通訳とは思えないほど安定している上に、大学生とは思えない落ち着きぶり。審査チーム一同、とても驚きました。特に若手の通訳者は一方の言語方向(たとえば英日)はスムーズで安定していても、逆方向の質が悪すぎてバランスがとれていないケースが多いのですが、本選進出を決めた4人は比較的バランスがとれていました。
同時通訳には訳者の性格が色濃く反映されることが多いのですが、予選参加者のパフォーマンスを聞く限り、とても真面目で誠実な方ばかりでした。一つひとつの表現を忠実に再現しようとする意志が明確に聞き取れます。それ自体は悪くありませんが、いざ話者の発話速度に遅れを取り始めたときや、直観的に訳しづらい表現に直面したときに、踏み込んだ意訳をした方はあまりいなかったようです。グダグダしたセンテンスを続けるよりも、腹を決めて仕切り直した方がよかった場面もありました。泥沼にはまる前に一歩踏み込んだ決断をする能力も、さらなるレベルを実現する上で必要になってくるのではないでしょうか。
本選に残った4人は誰が優勝してもおかしくありません。最高のパフォーマンスを期待しています。
データ
全体の英日平均スコア:68.50点
全体の日英平均スコア:63.80点
全体の合計平均スコア:132.30点
予選通過者の英日平均スコア:75.13点
予選通過者の日英平均スコア:61.38点
予選通過者の合計平均スコア:136.50点