【第2回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編「引き続きモジュール紹介、そして早くも前期半ば」

皆さんこんにちは。 第2回となる今回は、前回ご紹介しきれなかった会議通訳1のモジュールと、この1カ月で新たに学んだことについてご紹介したいと思います。

まずはモジュール紹介の続きです。

■会議通訳1

基本的には同時通訳の授業になります。日本の多くの通訳学校では学習し始めたころは逐次通訳のみに特化し、ある程度「完成」してからでないと同時通訳の訓練をすることはありません。その点で日本での通訳を勉強との最大の違いの1つがこの、逐次通訳と並行して同時通訳の訓練があるということだと思います。

このモジュールのメインは第6週、第8週、第10週に行われる模擬会議です。最初の3週間は「同時通訳で求められるスキルは何か」といったことをディスカッションや座学を通じて学んだり、ブースでのコンソールの使い方を学んだり、クイックレスポンスのエクササイズをしたりしました。
メインの模擬会議では午前の部・午後の部に分かれて各6名ずつのスピーカーが1人約10分ずつテーマに即したプレゼンテーションを行います。スピーカーは学生による立候補が中心ですが、先生方や卒業生の方々も様々なトピックでプレゼンテーションをしてくださります。残りの学生は午前・午後いずれの部にブースで通訳をするか、言語ごとにあらかじめ割り当てられており、さらにスピーカーでもなく通訳もしていない学生は会議の出席者としてディスカッションや質疑応答などで発言します。

ところで、前期の授業ではこのモジュールにかかわらず基本的にB言語からA言語への一方向のみの通訳を行います。A言語、B言語、C言語という言葉も日本ではあまり聞き慣れないかもしれません。AIICが定義する通訳者の使える言語の分類で、大まかにA言語は母語または母語と同等の言語、B言語は母語ではないが堪能に使える言語、C言語は理解することはできるがアウトプットは完全でない言語を意味します。私の場合はA言語が日本語、B言語が英語になりますので、今期は英語から日本語への通訳に特化することになります。基本的にはB言語が英語である学生が大半であるため、スピーカーが英語でプレゼンテーションを行い、それぞれ母語に通訳するという形が基本になります。しかし、中には英語がA言語である学生もいます。今年のクラスにいる2名は、B言語がフランス語、スペイン語、イタリア語です(ヨーロッパでは3カ国以上の言語に堪能であることが珍しくありません)。ですので、フランス語、スペイン語、イタリア語のプレゼンテーションも模擬会議では毎回含まれており、それを2名のいずれかがまず英語に通訳します。そして残りの学生はその英語通訳を聞いて、それぞれの母語に通訳する「リレー通訳」を行うこともあるのです。この責任重大な英語への通訳ですが、後期の授業ではいよいよ自分たちもすることがあるとのことなので、今からもっともっと英語を磨いておかなければと思い身が締まります。

モジュールの話に戻りますと、第4週に「交通」をテーマにプレ・模擬会議に臨みました。模擬会議の練習ということで、会議自体の長さやプレゼンテーションの数も模擬会議の半分ですが、自分なりのリサーチ手法やこれまでに習った準備の仕方などを活かしながら準備して臨みます。それでも実際にプレ・模擬会議を終了すると、「もっと早くから準備をしておけばよかった」「せっかく作ったGlossaryに載っている用語なのにいざ本番に訳語が出なかった」等の多くの反省点が見つかりますので、改善して次の模擬会議に臨むといった具合です。実際、模擬会議が始まってからも第1回、第2回…と回を重ねるごとに良くできた点、反省点を振り返り次回どう改善するか、その繰り返しです。

さて第1回の模擬会議のテーマは「高齢化」でした。現在のヨーロッパ諸国に見られる高齢化の傾向や、平均寿命の推移の展望、高齢者が抱える課題などスピーカーが思い思いのトピックでプレゼンテーションを行いました。そしてなんと私もプレゼンテーションを行いました! これまであまりプレゼンテーションをする機会もありませんでしたのでどのように作ったらいいか、うまくプレゼンテーションができるのか等不安はありましたが、だからこそやってみることにしたのです。プレゼンテーションをしなくても、模擬会議の準備のために高齢化について最近のトピックを学んで準備をしますが、プレゼンテーションをするためには自分で話す内容についてはきちんと理解し、人に伝わるようにしなくてはならず、背景知識を身につける上でも実は非常に効果的です。会議の1週間前を目途にスピーチのキーワードやメインテーマなどの基本情報を、5日前を目途にプレゼンテーションで使うスライドを提出します。自分が通訳をするために準備をする立場で考えると、私は早めの提出と、提出後に変更をなるべくしないことを心掛けています。私はなるべくほかのスピーカーとトピックがかぶらないように意識し、高齢者と動物セラピーに関するプレゼンテーションを行いました。終了後に「面白かった」「初めて聞くトピックだった」等と多くの人に言って頂き嬉しかったのですが、プレゼンテーションという点では焦って話していた自覚があったほか、聞き手のことをもっと意識して話すべきだったという反省もあり、すぐにでも次の機会に改善したいと思いました。

第1回の会議から2週間後に第2回の模擬会議が移民をテーマに行われました。プレ・模擬会議や第1回の会議に比べるとブースでの交代がスムーズになったり、会議の準備もそこまで時間がかからなくなったりと慣れてきました。そして現在は、リサイクルをテーマにした第3回の模擬会議に向けて準備中です。早くも今期最後の模擬会議です。ありがたいことに、再びプレゼンテーションを行う機会をいただきましたので、通訳・プレゼンテーションともにこれまで学んだことを最大限活かせるようにしたいです。

さて、第1回のコラムで詳しくお話しした逐次通訳、リサーチと理論についてもこの1カ月で学んだことを少しご紹介したいと思います。

まず、逐次通訳のモジュールでは、この1カ月でノートテイキングの時に使うシンボルや自分のパフォーマンスの評価の仕方、non-verbal skills(言語そのもの以外のスキル)について学びました。そして現在、クリスマス休暇前の山場として、グループプレゼンテーションを控えています。通訳学習に関連したテーマを設定し、3〜5人のグループでリサーチや簡単なアンケートやインタビューを行ったり、関連する論文を読んだりしながら20分程度のプレゼンテーションを行います。私のグループではスピーカーの話すスピードとノートテイキングをテーマに調査中です。チューター(言語に特化したフィードバックをくださる講師の先生)や卒業生の方にもご協力を頂きながら調査を進めていますが、きっと今回のグループワークで得られた発見から今後自分たちがスピーカーの話し方に応じて効果的なメモ取りをする際のヒントが得られるのではないかとワクワクしています。

スピーチ作成の課題も毎週引き続きおこなっています。スピーチの長さも現在では6分と随分長くなりました。そして授業でスピーチの発表を行う際、スピーカーは一気にスピーチ全体を話します。ほかの学生は6分程度のスピーチ全てをメモを取りながら聞いて、全部聞き終えてから逐次通訳をするのです。このようなスタイルの逐次通訳はなかなか日本ではなじみがないかもしれません。しかし、EUの通訳者となるための試験の中にこの6分間一気に訳すスタイルでの逐次通訳が含まれているそうで、このモジュールの学期末の試験も6分間の逐次通訳となっています。慣れないうちはスピーチがとてつもなく長く感じられ、メモを取ったノートのページがどんどん増えていって不安になり、そして「いつ終わるのだろう?」等と思ってしまうとそこで集中力が途切れてしまうことが、スピーチの理解や訳出のスキル以上に課題となっていました。今では初めのころに比べたらだいぶ慣れてきたように感じますが、それでもつい途中で「この単語どう訳そう?」などと考えてしまうと途端に話が分からなくなってしまうので、常に聞いて理解することに集中するのが引き続きの課題です。

また、リサーチと理論のモジュールでは、初めて成績評価対象になるグループプレゼンテーションが11月初旬にありました。まるで中間テストのような感じです。5人のグループで架空の会議を想定し、その通訳業務についてどのように準備をして臨むか、なぜそのような手法をとるのか、「なぜ」ということ、「妥当性」にこだわって25分間のプレゼンテーションを行いました。授業ではAcademic Writingの基本やCritical Analysisの手法を習ったり、Danica SeleskovitchとDaniel Gileの学説について対比的な観点でエッセイを書く課題に取り組んだりしました。課題の中でこのようにパリにあるESIT(l’Ecole Supérieure d’Interprètes et de Traducteurs)の通訳理論の基礎となったDanica Seleskovitchの意味の理論についてやDaniel GileのEffortモデルについてなど著名な理論について学ぶことができます。このリサーチと理論のモジュールの学期末には通訳学習に関連した論文のCritical Analysisについて2000語のエッセイの課題があり、提出まで2カ月ほどある今から徐々にテーマを決めたり論文を選んだりしながら準備を始めているところです。

次回は、各モジュールで新たに学んでいることに加えて、クリスマス休暇中の取組みやモジュール以外のことについても触れたいと思います。

(模擬会議の様子です。フロアの周りには6つの同時通訳ブースがあります。)


溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。