第18回|新年特別記念号☆全部見せます!!ヲタクの仕事道具(中編2/2)
Posted April 20, 2018
(前回の続きです。)
4.筆記用具
通訳者の筆記用具は、大別すると以下の2つがあると思っています。
- 「通訳メモ用」
- 「資料への書き込み用」
いずれも、こればかりは個人の趣味嗜好の領域?!「絶対的正義」なんてものはなく、本人が良い気分で使えれば何だっていいんじゃないか、と思っております(BICのボールペンを北米出張のたびに爆買いしている方や、こだわりを持って「鉛筆」を使っている方にもお会いしたことがあります)。そう前置きした上で、私自身が今たまたま何を使っているか、というお話です。
その時々の気まぐれで様々な製品を渡り歩いていますが、一つだけ気をつけているポイントがあります。それは「使用音」。キャップの「パチン」、ノック式ボールペンの「カシャン」、マーカーのペン先の「キュッキュッ」・・・ワタクシ的には全てNGですので、店頭のテスターで入念にチェックしてから購入するようにしています。
1. 通訳メモ用
複合筆記具(=多機能ボールペン)とそのカスタマイズについては前編(前々回の記事)を参照ください。「回転式」のボールペンを選ぶ理由は「芯を即座に切り替えられること」と書きましたが、実はもう一つ理由があります。「回転式」は「ノック式」に比べて音が静かなのです。
特筆すべきは、パイロット製のボールペンなのに他社(三菱Uniジェットストリーム)の替芯を使っていることですね(パイロットさん、ごめんなさい…)。
2. 資料への書き込み用
受験生が参考書をカラフルに色分けしているのを見ると「そんな暇があれば覚えなさい」と言ってあげたくなりますが、通訳者は別ですね。受験生は内容を全部頭に入れなければならないけれど、通訳者の資料は目の前に置いておけます。通訳者本人がプレゼンをするわけでもありませんしね。目立たせてナンボ、整理してナンボ、でございます。
準備をする時は、内容を覚えようとするのでなく、どんな話をするんだろう、と想像しながら、その場でぱっと必要な情報を探せるよう「カスタマイズ」するつもりでやると良いと思います。(不思議なことに、そうやってやっていると内容が頭に入っていたりします。「完璧なカンペを作ろうとしていたら、全部頭に入っていた」と言われるゆえんですね)
例えばIR(投資家関連)の資料。時間があれば数字を見て企業分析の真似事(笑)をしたりすることもありますが・・・。そこまでしなくても、この画像のようにカスタマイズしておくだけで、数字を訳すのがかなり楽になります。
※ネット公開されているIR資料を使用しています。
Bはbillion、Mはmillionです。IRのミーティングでは、まずは「売上」と「営業利益」が焦点となるので、そこにマーカーを引いて目立たせています(ここを詳しく説明しているとガジェットの記事ではなくなってしまうので、割愛しますが・・・)。
日本人が日本語で説明するので日本語版をメインにして、英語版の該当箇所がすぐに見つけられるようアルファベットを振っています。
外国人が英語でプレゼンする時は英語版をメインにします(どちらかの言語を読むのがちょっぴり苦手な方は、得意なほうを常にメインにしても良いと思います)。
蛍光マーカー各種
最もよく使う黄色は大容量のものを。
これも過去の記事で紹介しました。使い始めてもうかなり経ちますが、この書き味は心地よく、いまだに興奮します(笑)。
カラーペン各種
上から順に・・・
学校の先生御用達の別名「採点ペン」。カートリッジ式でコスパ抜群です。同種の製品の中では最もペン先の滑りが良いです。演者との打ち合わせで聞いた内容はこれでスライドに大書きしています。
こちらもカートリッジ式。万年筆は面倒臭そうで敬遠していましたが、これはびっくりするほど書きやすいです。緑のインクを入れて使っています。
おなじみ、消せるボールペン。どうしても必要な時(スピーチや司会原稿への書き込みなど)だけ使っています。細かい所にも書けるよう替芯は04を使用。
秘密兵器
※ネット公開されている資料を使用しています。
難しい専門用語は「記憶から引き出す時に脳ミソにかかる負荷」を抑えつつ「ぱっと口に出せるよう」単語のそばに訳語をあらかじめ書き込んでおきます。ただ、資料の背景(下地の色)が黒や紺、深緑などの濃い色だと、こんな風に普通のペンで書いても文字を読むことができません。
ワタクシ、こうしたプレゼンを密かに(「ダーク・フォース」ならぬ)「ダーク・プレゼン」と呼んでいます。そして、このダーク・プレゼンに限って、なぜか難しい用語が多いのです。この秘密兵器と出会うまでは、作成者に軽い殺意すら抱いておりました。
※ネット公開されている資料を使用しています。
なんと、こんなにくっきり見やすく書けるんですよ。専門用語てんこ盛りでもどんと来い!!
いずれもネットから資料をお借りして作ったダミーですが、実際にこの分野の先生方はダーク・プレゼン率高し。なぜでしょうね(ニーチェの「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」という言葉がちらっと浮かびましたが・・・いや、気のせいですね 笑)。
同種の製品をあれこれ試しましたが、これが一番インクの乗りが良いです。
5.文房具
1)コンパクトな携帯用文具
ペンケースに入れて携帯できる小さな文房具ならミドリXSシリーズがお薦めです。
小さいけれどしっかり留まります。
書き損じは普段は二重線を引いて訂正していますが、あまり汚くすると本番で何が書いてあるか分からなくなってしまうので、たまに使っています。
2)各種クリップ
どちらもクリップでありながら端がまっすぐなので、紙の束をその場で「ホチキス感覚で」とじることができます。私はこのクリップを常に何個か携帯していて、紙の枚数に応じて使い分けています。過去の記事でもご紹介しましたので、そちらもご覧くださいね。
3)各種付箋
右上から時計回りに
経験上、契約書や規定・法令集などは、隅から隅まで読むよりも、章節ごとにインデックスを付けて該当の箇所がぱっと開けるようにしておいた方が本番でうまくいく気がします(もちろん最低限、知らない単語があれば意味を調べておかなければなりませんが)。
付箋の限られたスペースの中に「章節の番号」と「タイトルを一言で要約したもの」を書き込んで、ページにひたすら貼っていきます。この一見「思考停止」したかのような「作業」。これをやることで、その文書の「建て付け」が整理・把握できるんですよね。どこに何が書いてあるか全体像がつかめるので、おのずと論点となりそうな箇所も分かってきます。その問題の箇所は詳しく読んでおきます。小説のように1ページ目から読むより効果的だと思います。
こうしておくと、本番で誰よりも早く該当箇所を開くことが出来るので、本当に楽です。「機先を制する」とはまさにこのこと(笑)。万が一条文など読み上げられても怖くありません。
「論点となりそうな箇所」にこれを貼っておきます。小さいので邪魔になりません。
専用のホルダーカッターもありますが、私は中身だけ買って、このまま手でちぎって使っています。前述のダーク・プレゼンの中には、黒いだけでなく表面がつるつるしていて秘密兵器「ユニボール・シグノ」をもってしても歯が立たないものがあります。このように「極めて凶悪なダーク・プレゼン(笑)」には、このテープ型のポストイットを貼って訳語などを書き込むようにしています。
罫線が付いているので使いやすいです。
4)マスキングテープ
日本会議通訳者協会の「日本通訳フォーラム」でガジェット関連の講演をさせていただいた時には、ガジェットの「最強王者」として紹介しました。そこそこ粘着力があるのに剥がしやすく跡も残らないので、一つ持っていると重宝します。プログラムをブースの壁に貼ったり、付箋の替わりにしたり・・・その使い道は無限大!
私は写真右上のように自分のペットボトルの目印に貼ったりもします。会議の主催者や通訳エージェントが通訳者用にお水を用意してくれるのですが、席替えを繰り返していると、誰のだか見分けがつかなくなってしまうからです(ちなみに、ペットボトルの目印には可愛いヘアゴムやワイングラスマーカーなど、女子力全開(!)なグッズを使っている方も男女問わずけっこういらっしゃいます)。
また、ペットボトルは写真左下のように、パナガイドの送信マイクを貼り付ければ簡易マイクスタンドに変身。両手が空くので、ページをめくったり電子辞書を引いたりしやすくなります。
右下は立ち仕事の時に電子メモパッドにタイマーを貼り付けた写真です。最近ではこうした用途を考えて目立たない黒を使っています(ちょっとお葬式っぽいので、次回は紺色くらいにしようかと思っていますが・・・)。
6.マスク
プライベートでマスクはほとんどしないのですが、ブースの中となると別です。パートナーが通訳している最中に咳が出そうになったら、邪魔しないようブースの外に出るのは最低限守るべきマナーですね。それに加えて、咳ばかりしていると、たとえ風邪を引いていなくても、相手は「密閉された小さな空間に一緒にいたらうつされるんじゃないか」と心配になると思うのです。フリーランスでやっていると、寝込んだりできませんしね。かくいう私も電車で隣の席の人が体調悪そうにしていたら、迷うことなく離れたところに瞬間移動(!)しておりますので・・・。
必ずしも「感染予防におけるマスクの効果」を全面的に信じているわけではありませんが、パートナーにいらぬ不安を与えないための方便(笑)として持ち歩いています。ポーチの外ポケットに入れっぱなしなので、雑菌だらけですけどね(笑)。
7.その他(オマケ?)
“IN CASE OF LOSS
PLEASE CONTACT:
XXXX@gmail.com
REWARD: 60USD”
(紛失の際は
XXXX@gmail.comまで
ご連絡下さい。
謝礼60ドル)
海外出張中にこのポーチをどこかに忘れたりした時のために、こう書いた紙切れを入れています。謝礼にどれだけの効果があるのかは分かりません。
でも実は、私はイギリスに住んでいた頃に、こんなふうに書かれた手帳を拾って、本当に謝礼をもらったことがあるのです!もちろん最初は辞退しましたよ(笑)。
もう一つの紙切れには「99」と書いてあります。テレビでもおなじみ、イスラエル出身の某メンタリストのショーの通訳をした時のこと。事前の打ち合わせで実際に「術」をかけられました。頭に思い浮かべた数字をズバリ当てられたのです。私の見ている前で彼がサラサラっと番号を書き付けた紙切れがこれです。テレビのあれは正直ヤラセだと思っていたので、それはもう驚きました。疑ってすみませんでした(笑)。今でもこれを見ると面白かったことを思い出して楽しい気分になるし、9はお金が貯まる数字だというので、お守り代わりにずっとここに入れてあります。
さて、次回はいよいよ後編。⑤?⑦、そして④のポーチの中でまだ紹介していないグッズが残っていますので、そちらをご覧いただきます。乞うご期待!!
平山敦子
Atsuko Hirayama
会議通訳者。得意分野は司法、軍事、IT、自動車など。元米国大統領、経済学者など著名人講演の同時通訳も多数。この仕事を目指したきっかけは大学在学中のアルバイト。スポーツイベントのバイリンガルスタッフとして働いていたが、ある日現役のプロ通訳者と同席、その仕事ぶりを目の当たりにし衝撃を受ける。
「私もこんな風になりたい!」とアルバイトに精を出す(?!)うちに、いつしかそれが仕事に。通訳界では知る人ぞ知るガジェットおたく。パフォーマンスを最大化してくれる優れモノの道具を求め日々研究中。