【第3回】通訳案内士のお仕事~北の大地から「講師として活用される通訳案内士(続き)」
皆様、こんにちは。北海道の通訳案内士・通訳者、飛ヶ谷園子です。前回は、今年の1月末から2月にかけて行われた「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」という観光庁の事業について、実施された経緯と概略についてお伝えしました。第3回目の今回は、実際の研修の様子をお伝えします。
研修プランの作成
「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」は、オンライン開催と実地開催を合わせて全国で270回開催されました。テキスト・動画などの教材や、スクリーンやPC画面に映し出される資料は全国で共通のもので、講師となる通訳案内士はその中から、受講者の業種や地域の特性に合わせて重点的に扱う場所を選んだり、伝え方を工夫したりします。受講者の語学力や経験に応じて初級研修と中級研修がありますが、同じ地域で初級と中級の両方が実施される場合であっても、会場の場所や交通の便など、語学力とは別の要因で参加する研修を選ぶ方がいることも予想されました。したがって、様々な業種、様々な語学レベルの受講者が同じ研修に参加することを想定して研修プランを作る必要があったのです。
北海道で講師に選ばれた通訳案内士は、そのほとんどが北海道通訳案内士協会の会員であり、日ごろから業務や研修を通して交流やつながりがあります。今回の研修でも、メール・SNS・ウェブ会議などを通して情報やアイディアを交換しながら、各自のプランを作りました。そういったやり取りを通じて、受講者にできるだけ楽しみながらインバウンド対応を学んでもらえるように、ロールプレイの機会を多く設け、また、英語に苦手意識のある受講者にも積極的に参加してもらうために、絵と文章を指さして意思疎通をはかる「コミュニケーションシート」という冊子を利用したり、翻訳アプリを実際に試してもらう時間を長めにとるという方針が固まりました。
2度の実地研修
北海道では10回の実地研修が開催され、私はそのうち網走市での初級研修と斜里町ウトロ地区での中級研修を担当しました。
網走は博物館網走監獄やオホーツク文化の遺跡等の観光地を有するほか、冬には流氷観光の中心地としても人気が高く、多くの観光客が訪れます。網走での初級研修には市内の宿泊施設やオホーツク地区の自治体からの受講者が多く、テキストの中から宿泊施設や一般的な観光案内に活用できる箇所を選んで研修を行いました。
一方、ウトロは世界遺産知床半島の観光拠点であり、国内外からたくさんの人が自然の景観やアウトドアアクティビティを楽しむために訪れます。研修には自治体や宿泊施設の職員のほか、多くのネイチャーガイドの方々が参加されました。テキストからは宿泊施設での会話やトラブル対応の箇所を選びましたが、ネイチャーガイドの皆さんのニーズも考慮して、ロールプレイの時間を多くとりました。具体的には、観光案内の例文を自分でアレンジして、知床の好きなところをお互いにアピールするというペアワークなどを行ってもらいました。
初級と中級のどちらにも、このような研修を受ける必要はないのではと思うような高い英語力を持った受講者もいれば、英語に対する苦手意識がかなり強い方もいます。そのどちらのタイプの方々にもロールプレイは非常に有効であり、語学の習得においてアウトプットがいかに大切かということを実感させられました。
コロナ禍の今、通訳案内士向けの研修や勉強会がさかんに開かれ、知識をインプットする機会には事欠きませんが、ガイド業務がほとんどないためアウトプットの実践の場は激減しています。今回の研修は、インバウンド対応をわかりやすく伝えるために知識を整理する機会であるとともに、今後の自分の勉強方法を見直すきっかけともなり、講師を務める通訳案内士にとっても非常にありがたい研修だったと思います。
次回は、インバウンド対応のアドバイザーとして宿泊施設を訪問した経験についてお伝えします。
飛ヶ谷園子(ひがや そのこ)
北海道札幌市在住。全国通訳案内士(英語・ドイツ語)、英語通訳者。北海道通訳案内士協会理事。日本の漫画・アニメに興味のあるお客様とのコミュニケーションを強化するため、現在様々な漫画を読んで勉強中。