【第8回】通訳案内士のお仕事~北の大地から「北海道のツアーあるある」
皆様、こんにちは。北海道の通訳案内士・通訳者、飛ヶ谷園子です。前回は冬の北海道でよく起こる交通トラブルについてお話しました。今回もまた、北海道での通訳案内業務中に起こりがちな問題についてお伝えします。
北海道はでっかいどう
北海道の広さについて、色々なところで話題になっているのをよく見かけます。北海道本島のみで日本の国土面積の約2割を占めるのですから、他の都府県に比べて北海道の面積が大きいことは間違いありません。それでいて、北海道と本州以南が同じ縮尺で一つの地図上に表されることは少なく、実際の大きさがピンと来ないため、北海道のある地点から別の地点への移動時間を調べてびっくりしたという話をよく聞きます。ですが、「北海道は広い」と言われる時、単なる面積の大きさとは別のことが話題になることが多いように思います。それは、「何もない部分の広さ」です。
連載第5回でも、ツアー中に何もない道を何十分も移動することがよくあり、ガイドとして話すネタを見つけるのに苦労するというお話をしました。町から町への距離が長く、道路と電柱以外の人工物がないという状況は、北海道ならではだと思います。業務中に特に困るのは、携帯電話の電波が入らないエリアが意外と広いということです。話すネタの問題は準備と工夫しだいでいくらでも解決できるのですが、インフラについては一個人の力ではどうにもなりません。ツアー中は観光施設・飲食店・宿泊先等に電話をかける機会が多いので、電波が入らないエリアを移動するとわかっている時は、電波が入る内にまとめて電話をかけるなどします。
携帯電話の電波以上に大きな問題はトイレです。ガイドはツアー客に対し、移動前に必ず次の目的地までの時間を伝え、トイレへ行くように(かなりしつこく)促すのですが、「今は行かなくても大丈夫」と言ってきかない人もいます。そして心配していたとおり、何もないところで「やっぱり行きたい」と言われたりするのです。道の駅やコンビニもない、峠などでは車を停める場所もないような道を何十分も移動することもあり、そのような時には事前にトイレへ行くよう強く勧めます。暖かい地域から来た旅行客の中には、寒いとトイレが近くなる現象を知らない人も多いので、冬は特に注意します。それでも、どんなに注意をしても「大丈夫」と言い張る人に強要することはできないので、トイレ問題は根本的な解決がなかなか難しいのです。
トラブル頻発の冬
冬になると、前回お話した交通トラブルの他にも、様々な小さなトラブルが発生しやすくなります。例えば、滑りやすい道が怖くてゆっくりしか歩けず、一つの訪問地で時間がかかる。道が滑るので着脱式の滑り止めを靴に付けるも、建物や乗り物の中では外さなくてはならないため、着脱のたびに時間がかかって行程より大幅に遅れる(または事前にお願いしたにも関わらず外さないままバスに乗り込み、ガイドがドライバーさんにお叱りを受ける)。滑って転ぶ。お客さんの足元に気を配りすぎて、ガイドが転ぶ。雪道に関するものだけで、これだけのことが頻繁に起こります。
他に、これは北海道だけではなく寒冷地に共通することですが、氷点下ではカメラやスマートフォンのバッテリーがあっという間になくなります。SNSが大好きな若いお客さんは、寒い場所でこそ写真や動画を撮り続けたり、SNSでリアルタイムに発信をすることを好みますが、その結果スマートフォンのバッテリーがなくなると、もはや観光どころではありません。以前、10代の女の子がスマートフォンのバッテリー切れで困っていた時に私のモバイルバッテリーを貸したことがあったのですが、彼女は翌朝にっこり笑って、貼るタイプのカイロを貼り付けたスマートフォンを自慢げに見せてくれました。自分のやりたいことを貫きながら旅を楽しむ姿に元気をもらった気がしました。
本連載ではこれまで主に通訳案内士の仕事についてお話してきました。次回は、通訳案内士と通訳の仕事の比較についてお伝えします。
飛ヶ谷園子(ひがや そのこ)
北海道札幌市在住。全国通訳案内士(英語・ドイツ語)、英語通訳者。北海道通訳案内士協会理事。日本の漫画・アニメに興味のあるお客様とのコミュニケーションを強化するため、現在様々な漫画を読んで勉強中。