【第8回】翻訳・通訳会社のクレーム処理「遠隔通訳のクレームⅡ」

翻訳・通訳会社は、翻訳者・通訳者には見えない舞台裏で様々なクレーム処理を行っています。本連載は目的は、その一部を紹介することで、翻訳・通訳会社が日々取り組む業務に関して理解を深めてもらうことです。執筆は現役の翻訳・通訳会社コーディネーター。登場人物はすべて仮名です。


オリンピックも延期となり通訳業界は不安定な状況が続いております。前回に引き続き続きまして、遠隔通訳に関するコラムをお届けしたいと思います。このご時世で御座いますから、何卒、皆様のお力になれたらと感じております。

さて、今回の事例ですが、遠隔通訳を行う際に、必要不可欠な音声についてです。今更話す必要もありませんが、声が聞えなければ、“通訳”することなど不可能です。電話で話すことも、もちろん。しかし、そういったことが起こった際には、焦らず対処しなくてはなりません。今日は、ある一人の通訳者に起こった、遠隔通訳での事件を、一つお話します。

Case 1

オカダさんは、明日行われる遠隔通訳の業務にヤキモキしていた。彼は、フリー通訳になってから、丁度8年目である。しかし、明日行われる遠隔通訳に関しては、初見であった。これまでやったことも無いことを始める時はいつも、妙な緊張感が込み上げてくるものである。夜に降りしきる雨の音が、更に不安を膨大なものへと変えていた――

――そして、朝がやってきた。昨晩の雨は嘘のように快晴である。今日のクライアントは、大手の食品会社であるF社。もちろん、オカダさんはこの会社を知っていて、昔から様々な商品を食したことがある。
業務が始まるのは、午前10時からであった。彼は、その2時間前にPCを開き、指定されたシステムがちゃんと起動するか、確認した。「きっと、うまくいく……」そう、胸に言い聞かせる。
オカダさんが、何故そこまで、不安に感じているかには理由があった。彼は、PC、特に最新の技術に滅法弱く、いつも上手くいかなかったことが多かったのである。しかし、ビジネスの場では、そんなことは言っていられない。このイノベーションの波に乗らなければ、様々な場面で遅れを取ってしまう。今回の業務は、オカダさんにとって、自身を飛躍させるために、行った挑戦であった。だから、失敗するわけにはいかなかったのである……。

10時になった。予定通り、会議が行われる。画面越しから、向うの話す声が聞こえる。それに応じて、オカダさんも、通訳を行う。でも、向うの反応がおかしい。何故なのか。「あの、すみません、オカダさんの声が聞えません……」その言葉を聞いて、彼は血の気が引いていくのが分かった。予期していたことが起こってしまったのだ。慌てている間に、会議は川の流れのように止めることは出来ない。起こってしまった不祥事に、焦って、我を忘れてアタフタしてしまう。どうしよう。どうしよう……。

そんな彼が、その後、どうなったか想像出来ますでしょう。当然の如く、F社から、彼に遠隔通訳の依頼は無くなってしまい、オカダさん自身も、自信を失ってしまいました。

次にお話するのは一時退出してしまってクレームとなったケースです。

Case 2

モモタさん、IT、エンタメとどの分野でも柔軟にこなせる若手通訳者です。Case1のオカダさんとは違い、システムにも強く遠隔通訳業務も回数を重ね慣れてきたところ。
今回は「会議担当者の方、英語が全く話せないわけではないので、わからなくて聞き直したいときだけ、お願いできますでしょうか」との依頼でした。いわゆるお守り通訳だ。
一言も通訳せず終わることもあるけど、メモをとりながら聞いていなくてはならないので
頭はフル回転だし、負担は同じだ。
システムにつなぎ会議も順調に始まり、思ったよりも担当者の方、英語が堪能でほぼ出番はなさそうだ。最後会議内容の確認がある可能性もあるので、メモはとっていた。
内容も何度も対応したことのある技術会議なので用語も問題なしと思っていたところ、「あれ、、、お腹が痛い・・・我慢できない」。
そーっと会議を抜けてしまった。対面式の会議なら担当者に断ってトイレ休憩取らせてもらうけど、電話会議なので中断するのもと思い、一時退出してしまった。

急いで戻ると「モモタさん、モモタさん、聞こえていますか?お願いします」と聞こえている!慌てて戻ったがタイミング悪く途中退出していたのも知られてしまうことになった。
もう1度発言を繰り返してもらうことになり、通訳は問題なく会議を終えたが、会議終了後エージェントからもお叱りを受けてしまった。

これは電話会議でしたが、最近はZoomやTeamsなどTV会議が主流で画面に映ってしまい途中退出も明らかになってしまいますね。
Zoomでは画面を事前に録画しておき、一時退出してもばれない機能があるようですが、、(笑)

今回のポイント

・会議システムの動作確認はエージェントも推奨するかと思いますが、10分前にクライアント担当者と最終確認すること
・途中退出する場合は会議中断が難しければ、担当者に個別メールを入れるなど一言知らせてから出る(後で何か言われた場合の立場を守るためにも大事です)