【JITF2020】鈴木立哉「『コロナショック』と金融翻訳」
鈴木立哉(すずき・たつや)
金融翻訳者。大卒後、野村證券勤務などを経て2002年に独立。現在は主にマクロ経済や金融分野のレポートなどの英日翻訳を中心に手がける。訳書に『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版)、『ビッグミステイク レジェンド投資家の大失敗に学ぶ』(日経BP)、『FUZZY-TECHIE(ファジー・テッキー) イノベーションを生み出す最強タッグ』(東洋館出版社)、『世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー』(翔泳社)など。著書に『金融英語の基礎と応用 すぐに役立つ表現・文例1300』(講談社)。現在本ホームページ上で「チャーリーの金融英語」を連載中。
『コロナショック』と金融翻訳
新型コロナウイルス感染症「COVID-19」が猛威を振るっています。昨年12月31日に北京の市当局が「原因不明の肺炎患者が27人いる」と発表(7月4日付朝日新聞)してから半年あまり。世界の感染者数は1000万人、死亡者数は50万人をいずれも突破し収束の気配は全く見えておらず、政策当局も専門家会議もマスコミも、感染第2派への対策をどうするかの議論を始めているようです。
一方金融市場、なかでも米国を中心とする株式市場はどう動いたでしょうか。GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)またはFAANG(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google)などのハイテク株の指標であるナスダック総合株指数の推移を見ると、2月に史上最高値(9838.37ポイント)を付けた後に断続的に暴落が発生します。1日単位、あるいは週単位で「世界金融危機以来の下落率」「10年ぶりの下落率」という言葉が新聞の見出しを飾ったのを覚えておられる方も多いはず。結局3月23日までの1カ月での下落率は33%に達しました。ナスダック指数は6631.42まで下げたところで反転し、今度は上昇トレンドに入って6月初旬にこの水準を突破。それ以降も上昇を続け、7月2日も史上最高値を更新して引けました(10,207.63)。
我々はまだ「コロナ禍」(英米の新聞雑誌ではCOVID-19 Crisisと表現されているようです)」のただ中にいるので、今後5~10年先に今を振り返った時には「最悪期」は、もしかしたらまだ先に来るのかもしれません。「まだまだ『終わりの始まりだったね』」とならない保証は何もないのですが、今の市場を見る限り「何となく」最悪期が過ぎ去ったように見えなくもないし、またそう思いたい。少なくとも景気指標はそう示唆しているし、市場は「前のめり」なくらいにガンガンの強気になっている。
今私の業務日誌を振り返ると、今年の2月下旬から3月いっぱいまでの相場下落~底打ち期に、ほぼ毎日(というか毎朝電話が来て)マーケットレポート翻訳の依頼が舞い込みました。市場に対する見方は日々めまぐるしく動いていたのです。その意味では私もまた「最悪期(と思いたい)」の渦中にいたことになる。そこで今回のセッションでは、COVID-19と市場の動きに視点を置きつつ、あくまでも翻訳者の目線で今年の2月~6月ぐらいまでを振り返ってみることにしました。関根さんから【JITF2020】のお話を伺った時に、コロナ禍を生きている当事者の一人として、私なりに今の知識を整理しておこうと思ったのです。もとより私は経済・金融の「専門家」ではありませんから、報道された内容、公表されているレポート等を読み直して、英語表現や訳語(文)に背景説明をつけるといった形で発表内容をまとめていければ、と考えています。
ひとつよろしくお願いします。