第7回|通訳者も破壊的テクノロジーで業務改革!!(中編)
update:2017/02/15
破壊的テクノロジーその2ーモバイル
今回のテーマは「モバイル」。当然スマホを中心とした話題になりますが、いつもの「便利アプリ」のお話とはちょっと違うんです。
というわけで、本題の前に少しだけ前置きを…。
皆さんは、EFO(Entry Form Optimization/入力フォーム最適化)という言葉を聞いたことがありますか?
ウェブで問い合わせや申し込み、登録フォームの入力をしていて、正しく入力している(つもり)なのにエラーが頻発して先に進めなかったり、前画面に戻ったら正しく入力したものまでチャラになっていたりすると、嫌になって途中でやめてしまったりしますよね(これを業界用語で「途中離脱」と言います)。
Eコマースの世界では、通りすがりの「匿名ユーザー」をまずは「ID番号でメアドを管理できるレベル」にすることが第一歩。その先は、セールのお知らせを送ったり、さらに詳しい個人情報を登録してもらったり、様々な可能性が広がります。「匿名=その他大勢」のままでは、その人がサイトを訪問してくれるのを待つしかない。せっかく興味を持ってくれたのに、入力フォームのせいで「離脱」されるなんてもったいない話です。
そこで注目されているのが、EFO。入力フォームを使いやすくして「途中離脱」を防止、ビジネスチャンスの裾野を広げようというもの。
しかし、どんなに使いやすい入力フォームを作っても、パソコンでの利用しか想定していなければどうでしょう。スマホでアクセスした途端、先程の「途中離脱」のシナリオに逆戻りです。
最近は、何でもスマホで済ませ「パソコンは持っていない」または「持っているがほとんど使わない」という人も増えてきました。これを踏まえ、ウェブサイト開発では、スマホでの利用を想定した使いやすさの追求、すなわち「Mobile Optimization (モバイル最適化)」が必須となりつつあります。
こうした流れはウェブサイトだけではありません。「商談管理」など業務ソリューションでも同じ。営業員の持つスマホで使いやすくないと、誰も「見向きもしない」あるいは、「表向きは使っているフリはするけれど、裏では従来のやり方を続ける」など、生産性に貢献できないし、システムにデータも蓄積されない。せっかくの投資が無駄になってしまいます。そんなわけで、アプリケーション開発においても、スマホの画面や操作を前提に作り込む「mobile-optimized」 なユーザインターフェースが重要な要素となってきているのですね。
…と、以上が「破壊的テクノロジー」の文脈における「モバイル」だとすると…
今度は、私たちの日々の仕事に目を移してみましょう。通訳派遣会社のタイムシート、秘密保持契約書、請求書…などなど。
メールで送られてきたこれらの用紙を印刷し、手書きで必要事項を記入して、スキャンしてメールする。
うーむ… EFOやらモバイルやら、それ以前の話ですね。届いたメールを自動印刷し、必要事項を書き込むだけで、スキャンも送信も同時にやってくれたら便利だろうなァ。…ってそれファックスじゃないですか(笑)!!!そうなんです。派遣会社とのやり取りは「ワープロ」と「ファックス」の時代で止まってしまっているんですよね。
全て手書きと郵送でやっていた時代からすれば、「ワープロ」や「ファックス」はものすごいイノベーションだったはず。当時、それらを抵抗なく取り入れることが出来たのは、「ペン→ワープロ」、「郵送→ファックス」という風に、ほぼ等価的に置き換えることができたからなのでしょう。これまでの仕事の仕組みや考え方を一切変えることなく、しかも効果が分かりやすいですからね。結局、その延長線で「ワープロ→パソコン」、「ファックス→Eメール」に置き換えているだけなんですよね。
私たちがスキャンして送った用紙が派遣会社でどのように処理されているのか想像すると、私たちの手間とは比較にならないくらい大変そうです。
今や「通訳者がユーザー名とパスワードでログインし、『mobile-optimized 』された入力フォームで、始業・終業時刻、交通費など入力し、『送信』をクリックする。すると、その内容がクラウド上のデータベースに書き込まれる。書き込まれると派遣会社の担当者に自動で通知メールが送られ、そのメールのリンクをクリックすると、担当者のパソコン画面に情報が表示される。内容をチェックして『承認』をクリックすると、それが経理部門に転送され…」といったことは、技術的にもコスト的にもさほど難しいものではないはずですが…。
いつか、クラウドファウンディングで資金を集め、プログラマーを雇って私が開発しようか、とすら思っているくらいです(笑)。
それはさておき、これが現時点での理想とすると、今回ご紹介するのは、まだまだそれとは程遠いものかもしれません。受け手がファックス時代で時間が止まっている以上、アウトプットはあくまでメールの添付文書とならざるを得ません。ただ、少なくともmobile-optimizedな入力フォームは、私たちの効率UPに大きく貢献してくれるはず。また、アウトプットの「添付文書」は入力の簡便さからは想像できないほどの出来栄えで、初めて見た時は感動、いや、戦慄を覚えるほどでした(笑)。
Adobe Fill & Sign DC ? PDF フォームを簡単入力
PDF文書は編集できないため、契約書がこれで送られてくると、住所や氏名を手書きしなければならず憂鬱でしたが… Adobeさんたら、いつの間にかこんな便利なものを開発してくれていました。
メール添付されているPDF文書を読み込んで開くと(具体的な方法は開発元のマニュアルを参照のこと)、文字列や「?」などの記号を挿入することが出来ます。これを印刷し、あとはサインするだけ。「原本は不要、メール添付のみでOK」なら、署名をスマホ画面から指やスタイラスで書いて貼り付けることも可能です。
嬉しいことに、最近のアップデートで画像も扱えるようになりました。これで、カメラ撮影した印影が印鑑に!私は「署名」に手書きのサインを、「イニシャル」に印影を登録して使っています。
(白い紙にハンコを押して写真に撮ると、どうしても背景が薄暗くなり、貼り付けたことがバレバレ。Cam Scanner(iOS版/Android版)で撮影して「増強・鮮明化」で処理すると綺麗に出来ますよ。)
最近では、ワードやエクセル文書もPDFに変換してコレを使っちゃっています。
FIll & Signはパソコンでも使えます。Adobe Acrobat Readerの「ツール」に入っています。
簡単入力!!「タイムシート」- PDF作成(交通費精算書・タイムシート)
デベロッパ:masaya kato
(iOS版のみ)
時計と連動した入力画面から「出勤」や「退勤」のボタンをタップするだけで始業・終業時刻を記録できるアプリです。
上の画像は出勤ボタンを押し「勤務中」の状態。記録した時刻は後から編集可能です。
交通費や経費も記録できます。私は毎日違う会社の仕事をするので、画面左上の「備考」からその日の派遣元を入力しています。
「編集」をタップすると、アラーム設定に似たドラムロールとともに、時刻を微調整するボタンが現れます。これぞmobile-optimized!とりあえず到着したら記録して、後から正式な出勤時刻に直してもよいし、万が一押し忘れてもこれなら安心。
でも、このアプリが凄いのはここからです!「一覧」の画面を開き右上の「PDF」ボタンをタップすると…!!!
ジャジャーン!(←効果音)すごくないですか!?!私は自営業者なので自分の記録用ですが、派遣社員だったら雇い主に「コレ使わせてくださいっ!」って交渉してしまいますね…(笑)。表示項目はカスタマイズ可能。PDFはメール添付や印刷ができます。
「メール」ボタンでは箇条書きの明細をテキスト形式でメール本文に一発入力。下の画像でモザイクをかけているのは備考に入れた派遣会社名です。
関係ない行を削除すれば、フリーランス通訳者が終業報告をするのにも使えますよね。遠隔地の研修通訳など何日も連続して同じ派遣会社の仕事をする時など重宝しそうです。1日に複数案件を登録することができないのが惜しいところですが、これも備考欄を活用すると良いと思います。
アンドロイド版が無いのが申し訳ない限りですが、「タイムシート」「勤怠」などでアプリを検索するとたくさん出てきますので、ぜひ同じようなものを見つけて活用してみてください。
Invoice Bee – Free Invoice & Estimate
英語で請求書を発行する時に重宝しています。様々なものを試した末、これに落ち着きました。無料でこの完成度は凄い!シンプルで使いやすい!!
自分のプロフィール(屋号や住所、税金の設定、振込先、支払い期限、など)とともに、通訳料を「Full Day(終日)」「Half Day(半日)」など単価別に「Item」として登録しておきます。(請求書を作りながら登録も可能。)クライアントも一度登録したら、次回からはリストから選ぶだけ。そんな風にしてでき上がった請求書がこちら。
クライアントも通訳料も一度設定すればリストから選ぶだけなので、一通20秒くらいで作れてしまいます。自動計算だからケアレスミスも無し!
原本送付が不要なら、このように手書きサインを入れてアプリ内からメール送信。すると、「Invoice from Atsuko Hirayama(屋号)」というタイトルで、下の画像のようなカバーレター(文章は事前に設定)に請求書のPDFが添付され送信されます。さらに凄いのは、このメールが読まれたら「Read(閲覧済み)」として通知してもらえること。
残念なのは、税金が一種類しか設定できないこと。円に対応していますが、通貨も一種類しか設定できないため請求先によって通貨を切り替えたりできません。そんなわけで、私は海外の特定のクライアントにしか使っていませんが、目的さえ合えばかなり使えるアプリです。
Misoca(ミソカ)- 無料の請求書作成管理アプリ
デベロッパ:Misoca Inc.
(iOS版のみ)
国内向けにはこちら。消費税や源泉税など複数の税金を設定でき、%で計算した税額の小数点以下を「切り捨て」にしてくれるなど、日本の制度にマッチしています。
こちらの残念な点は、通訳料を事前登録できないこと。でも履歴として残るので、2回目以降はそこから選びます。
作成した請求書はメール送信や印刷はもちろんのこと、有料ですが、原本の郵送代行サービスもあります。一通180円。えっ、高い?!私も最初そう思ったのですが、初回のみ「無料」というので、試しにポチってみたら…すっかりその魔力(?!)に取り憑かれてしまいました。印刷して、一筆箋に一言書いて同封して、宛名を書いて切手を貼って… この手間がクリックとともに時空の彼方(?!)に吸い込まれて消えたような感覚を覚えました。2回目以降は100円玉も消えますけどね(笑)。
こちらはクラウド会計ソフトFreeeとも連携しており、請求書の内容をこれまたワンクリックで記帳が可能です。経理全般をクラウド化する決心がまだつかない方は、まずはMisocaから試してみるのも良いと思います。
こちらもAndroid対応でなく申し訳ないのですが、AndroidはFreeeのアプリから請求書を作成できるようです。(プレスリリース参照)
というわけで、「通訳者も破壊的テクノロジーで業務改革!!」の「中編」は「モバイル」をテーマにお送りしました。次回はいよいよ「後編」です。お楽しみに!!
平山敦子
Atsuko Hirayama
会議通訳者。得意分野は司法、軍事、IT、自動車など。元米国大統領、経済学者など著名人講演の同時通訳も多数。この仕事を目指したきっかけは大学在学中のアルバイト。スポーツイベントのバイリンガルスタッフとして働いていたが、ある日現役のプロ通訳者と同席、その仕事ぶりを目の当たりにし衝撃を受ける。
「私もこんな風になりたい!」とアルバイトに精を出す(?!)うちに、いつしかそれが仕事に。通訳界では知る人ぞ知るガジェットおたく。パフォーマンスを最大化してくれる優れモノの道具を求め日々研究中。