第5回 JACI同時通訳グランプリ 入賞者の声

【学生部門】

グランプリ 安部望海(ミドルベリー国際大学院モントレー校)

この度はグランプリを受賞することができ、大変光栄に思っております。

2度目のグランプリ受賞を果たせたことは、大学院で愛情あふれるご指導をして下さった恩師、最後まで伴走してくれた同期、常に私の憧れであり続けて下さる業界の先輩方、そしていつも私を支えてくれる家族のおかげです。この場を借りて心から感謝の気持ちをお伝えします。

今年のスピーチは、多岐に渡る分野の固有名詞が次から次へと登場する内容で、大変苦戦しました。準備期間においては幅広く深いリサーチを怠らず、訳出時は雄弁なスピーカーの話す速度についていく為に適切な情報の選択を瞬時に行う必要があり、まさに同時通訳者としての基礎スキルが求められる内容だったと思います。スキルの向上に加え、通訳者として、社会の動きや、時代と共に変化する言葉に対して常にアンテナを張り続けなければと改めて痛感いたしました。

2年前、通訳者の仕事は孤独な戦い、というイメージを抱きながら本格的に業界に足を踏み入れた私ですが、JACIや大学院といったコミュニティにおいて素晴らしい出会いに恵まれ、同じように孤独な戦いに挑み続ける者同士こそが、本当に理解し支え合える存在であることを知りました。このような機会を提供して下さったJACIの皆様に、心より感謝いたします。これからも同じ業界の戦友を大切にし、共に成長していきたいと思います。

今年の5月に会議通訳の修士号を取得し、来月からは米国にて社内通訳者として働きます。修行の日々は続きますが、今は不安よりも楽しみな気持ちが勝っています。これからも努力を怠らず日々邁進してまいります。

準グランプリ 山田舞(ミドルベリー国際大学院モントレー校)

この度は準グランプリを受賞し、大変光栄に存じます。

私にとっては大きな挑戦と学びの機会となり、 同時通訳グランプリを開催してくださいましたJACIスタッフの皆様、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。

二年間通いましたミドルベリー国際大学院では、先生方は常に自分の限界に挑戦するような環境を提供してくださいました。同時通訳グランプリもその一つで、100名を超える参加者の方々が聞いてくださる中通訳を競い合うという、私のコンフォートゾーンを完全に超える経験でした。緊張の連続でしたが、本選に備え、快く練習に応じてくださった皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。

去年は予選時、ファイルの変換に失敗し提出できず悔しい思いをしたこともあり、今回は録音方法などを事前に話し合い、本選前はハンドオーバーを中心に練習をしました。大学院 で二年間毎日練習をしていたのが、グランプリ受賞者の安部望海さんです。共に厳しい訓練を乗り越え、切磋琢磨してきた安部望海さんと受賞ができたことを心から嬉しく思い、これ以上ない学生生活の締めくくりとなりました。

全く同通の経験がなかった私を、熱心なご指導と的確なアドバイスで導いてくださったミドルベリー国際大学院の先生方に心から感謝を申し上げたいと思います。また幼い子どもが三人いながら、このような挑戦を続けられてきたのも、全力で支えてくれた日本とカリフォルニアの家族のおかげです。

本選までの経験や大学院での学びを糧に、これからも精進してまいります。このような素晴らしい機会を設けていただき、本当にありがとうございました。

■指導教員 森 千代 ミドルベリー国際大学院モントレー校客員教授(日本語通訳)

まず初めに、今年も同時通訳グランプリを開催されるにあたり御尽力されましたJACIの皆様、そして審査員の皆様に改めて深く感謝を申し上げます。昨年のグランプリ(安部望海さん)、そして準グランプリ(ニック・コンチーさん)受賞に引き続き、今年もミドルベリー国際大学院の大切な教え子たちがダブル受賞できたこと、心からうれしく思います。グランプリ二連覇の安部望海さん、そして準グランプリの山田舞さん、本当におめでとう!

MIISでの2年間、お二人はずっとクラスメートとして勉強と練習に励んできましたね。常に謙遜素直でたゆまず向上心を燃やし、通訳の練習を何よりも最優先で取り組んできた努力が実りましたね。二人が日々の授業の予習、復習、そして通訳練習に、寝る時間を惜しんで取り組んでいたのを目の当たりにしてきたので、このような形で結果を残すことができて本当に嬉しいですね!二年間の実践的な通訳演習訓練を通して大きく成長した、まさに努力の賜物だと思います。

毎年思うことですが、二年間で全くの初心者からプロの通訳者へと大きく立派に昇華していく学生さんの成長を身近に見ることで、教えることを通して彼らの通訳人生に関われることへの深い感慨と、また同時にその責任の重さを感じ、身の引き締まる思いがいたします。ミドルベリー国際大学院の学生さんの共通点は、向上心にあふれた努力家で常に「さらに上」を目指していることです。努力の成果物は成功ではなく成長であると思いますが、通訳という職業はまさに成長をし続けられる仕事です。コミュニケーションのプロとしてたゆまぬ努力を続け自分を磨く旅路に、終点はありません。私はそれこそがこの職業の最大の魅力であると思います!大好きな語学を存分に生かして言葉のプロとしてキャリアをスタートしたい、日本語通訳を極めたいとお考えのみなさん、ぜひMIISでお会いしましょう!

【社会人部門】

グランプリ ウォンカム真謝子

“The path is made by walking”

コロナ禍の2020年。これまでの日常に一時停止ボタンが押され、いつ再開されるのか、いったい再開されるのかどうかもわからない中、選んだのはリセットボタンだった。

ステイホームにあって多くの人がそうしたように、人生を振り返り、この先を考えた時、YOLO. Better late than never. 自分にチャレンジすることにした。

タイミング的にラッキーだった。都心の通訳スクールをオンライン受講できた。セミナーやワークショップ、さまざまな自主勉強会にもオンライン参加できた。

リプロ?サイトラ?なんだろ、それ?という中で受講開始し、進級できるかどうか、通訳で食べていけるようになるかどうか、今さら人生を変えられるかどうかなど、不安に苛まれながらの2年半。

闇を手探りで進む中、光となってくれたのは通訳者ブログや投稿、JACIの記事、そして勉強仲間からの惜しみない情報共有と励ましだった。

スペインの詩人、Antonio Machadoは語る。

Caminante, no hay camino,

se hace camino al andar.

(道ゆく人よ 道などない 

道は 歩くことでつくられる)

(Traveler, there is no path.

The path is made by walking.)

まだまだの自分に歯がゆい思いをする日、穴があったら入りたいと思う時、打ちのめされ、もう立ち上がれないと思うこともある。グランプリの楯はそんな私に勇気をくれる。

すでに活躍中の方々。学習中の方々。どこから来てどこへ向かうのか、同じ歩みはひとつもないが、旅の仲間は多い。

すばらしい先輩方や仲間たちに出会えた幸いをかみしめつつ、これからも歩き続けたい。

準グランプリ 工藤未貴

この度は、栄誉あるJACI同時通訳グランプリで準グランプリを受賞できましたこと、大変嬉しく、光栄に存じます。本大会に関わられたすべての方に心より感謝申し上げます。

通訳という技術にはメソッドや勉強法はあれど、訳し方に「正解」はありません。言葉選びや表現方法などは、通訳者によって大きく異なります。また、会議参加者から毎回感想が返って来るわけではないので、「自分の訳し方はこのままで良いのだろうか。ちゃんと分かりやすい訳出になっているだろうか」と不安になることもあります。そんな中、同時通訳グランプリの存在を知り、自分の通訳技術がどこまで通用するのかを試したくなり、本大会への出場を決断いたしました。そして、出るからには優勝を目指したいと思っていたため、5月末に予選通過のメールが届いたときには大きな喜びを感じると同時に、緊張が一気に高まったのを覚えています。

本選当日も朝からずっと緊張していた私は、本番の訳出中に何度も心が折れそうになりましたが、その度に「ここで諦めるな。最後まで諦めるな」と自分に言い聞かせながら、なんとか二つのスピーチを訳し終えました。審査を待っている間もふわふわとした気持ちが続いており、「準グランプリ」という結果が発表されてようやく緊張の糸が切れました。正直、悔しい気持ちが全くなかったと言えば嘘になりますが、自分が身を置いている通訳業界でこのような結果を残せたことはとても誇らしく思います。

本大会の運営に携わられたJACIの皆様、審査員の皆様、スピーチを読んでくださったStephen Knight様およびサイラス・望・セスナ様。お忙しい中、このような貴重な機会を設けていただき誠にありがとうございます。次に、本選でペアを組ませていただいた西原さんをはじめ、ファイナリストの皆様。打ち合わせ時や当日の控室で皆様とお話しできた時間はかけがえのない時間です。いつか皆様とどこかの現場でお会いできる日を楽しみにしています。そして、大会出場をサポートしてくれた家族、友達、通訳仲間、同僚たち。皆様からの応援のおかげで最後まで頑張れましたし、皆様からの祝福のおかげでこれからも頑張ろうと思いました。本当にありがとうございます。

今回の結果に甘んじることなく、さらに自分のスキルを磨き、「次回の通訳も工藤さんでお願いします!」と言っていただけるような通訳者を目指して今後も精進して参ります。ありがとうございました。

【実行委員長のメッセージ】

日本会議通訳者協会理事 小野陽子

オンライン開催も今年で3回目ということもあり、運営チーム一同慣れたつもりでおりましたが、そういうときほど気を引き締める必要があるということを再認識いたしました。審査員の皆様、講演者の方々、視聴者の皆様、準備不足のためスムーズに進行できず、大変失礼いたしました。

改めまして、お忙しい中、審査をお引き受けくださった鶴田知佳子様(JACI名誉会員 東京外国語大学名誉教授)、工藤浩美様(株式会社 テンナイン・コミュニケーション 代表取締役)、中山貴子様(株式会社 コミュニケーターズ 代表取締役)、桃原則子様(有限会社 M & Partners International 代表取締役)、トム・エスキルセン様(JACI認定会員)、木村由貴子様(株式会社 ブリジック 代表取締役)、森田系太郎様(JACI認定会員 シミック株式会社社内通訳者)フリィ・マクウィリアムス 様(JACI副会長/認定会員)に心よりお礼を申し上げます。本年も長時間に渡り、ファイナリストたちの同時通訳を聞き、厳正な審査を賜り、誠にありがとうございました。

また、グランプリ終了後に審査員の皆様から何度も「素晴らしかった」とコメントをいただくほど、内容もデリバリーも抜群のスピーチをご提供くださったStephen Knight様とサイラス・望・セスナ様にも心より感謝を申し上げます。ほとんど休憩もないまま同じスピーチを二回繰り返すことは容易ではありませんが、お二人とも安定したスピーチをしてくださり、おかげでファイナリストたちは公平な状況下で同時通訳を行うことができました。本当にありがとうございました。

本年度は学生の応募が少なく、またほとんどが海外からの応募でした。弊協会の取り組みが海外に広がり、海外在住者にもチャンスを与えられていることは喜ばしいことですが、国内の学生にももっと参加してもらえるように認知度を上げたいと改めて感じました。

学生部門グランプリ安部望海さん、準グランプリ山田舞さん、社会人部門グランプリウォンカム真謝子さん、準グランプリ工藤未貴さん、受賞おめでとうございます。学生部門グランプリの安部望海さんは2年連続のタイトル獲得となりました。グランプリを獲得した翌年に再度応募をする勇気、防衛戦となる本選でのプレッシャーに負けない強い心、そして何より実際にグランプリを勝ち取った実力、本当に素晴らしいと思います。

審査員の皆様より、審査が難しいほど全員僅差であったお聞きしましたので、今回惜しくも受賞を逃した方々も、胸を張っていただきたいと思います。そしてぜひまた来年ご挑戦ください!

最後に、同時通訳グランプリをご視聴くださった皆様にもこの場を借りて感謝申し上げます。本年度の視聴者登録は160名ほどでした。昨年より視聴者数が減ってしまったのは非常に残念ですが、勇気を出して参加したせっかくの晴れの舞台で観客がいないのは非常にさみしいものです。今回ご視聴くださった方々のおかげでファイナリスト達も程よい緊張感と高揚感を持って取り組めたのではないかと思います。本当にどうもありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。