第6回 JACI同時通訳グランプリ 入賞者の声

【学生部門】

グランプリ 小松あろは(ミドルベリー国際大学院モントレー校)

この度はグランプリという名誉ある賞をいただけたこと、大変光栄に思っております。

JACIの同時通訳グランプリは、私が通訳と出会った学部生の頃から、いつかグランプリに輝く日を夢見てきたコンテストです。学部2年生の頃に初めて挑戦してから、毎年予選登録を欠かしませんでした。パソコンの不具合で録音がうまくできず、提出できなかった年もありました。毎年予選敗退し、悔しい思いをしてきたので初めて本選に残れた年にグランプリを受賞することができて嬉しいです。

私が通訳を志すきっかけとなったのは、学部生の頃に受けた授業でした。それまで、私は通訳とは、ただ二つの言語を行き来するだけの淡々としたつまらない作業だと思っていました。しかし、授業を通して、通訳は自由に言葉を選択し、伝えることができるクリエイティブな仕事だということがわかりました。そして、大学院では「聞き手を意識した通訳」の重要性を学びました。今回のグランプリでは大筋を取って流れを掴み、落ち着いたトーンで訳出するということを心がけました。審査員コメントで自然な訳出だったと言っていただけて、進学してからの半年間、一番注力してきたことが形になっているとわかり、嬉しかったです。

グランプリの受賞は私一人では叶いませんでした。大学院で指導してくださっている先生方や、毎日のように一緒に練習してくれているクラスメイトのおかげです。また、学部で通訳を基礎から教えてくださった先生、そして、いつも応援してくれている学部時代のゼミ仲間のおかげでもあります。この場をお借りして今日まで私を支えてくれた皆様に心より御礼申し上げます。

準グランプリ 井原菜緒(国際基督教大学)

この度は準グランプリを受賞することができ、大変光栄に思います。

本大会を通してたくさんの学びがありました。公表されているテーマを手掛かりに、事前準備として関連動画でペアと同時通訳とハンドオーバーの練習をしていました。広いテーマに対する準備の切り口について考え、自分の訳を客観視する意識が強まったと思います。また、本選当日は他のペアが通訳している際は、待機組の出場者同士で通訳について話し合える貴重な機会となりました。切磋琢磨しながらの勉強、そして通訳技術を磨く姿勢を持った同志との出会いは、本選に出場できたからこそ得られたものでした。今回この大会の機会を可能にしてくださったグランプリの運営スタッフ、本選出場者、大会関係者の皆様に御礼申し上げます。

私は現在通っている国際基督教大学に入ってから通訳に巡り合いました。大学で通訳の授業を履修して、メモの取り方、訳出のわかりやすさ、通訳者としての倫理感など、初めてプロの通訳者の凄さを知りました。そこで学んだ通訳の面白さ、そしてかっこよさを、自分も追求したい。その思いで勉強を続け、今回は準グランプリ賞を受賞できたこと、とても嬉しく思います。私が通訳に出会うきっかけを作ってくださり、いつも熱心にご指導いただいております田村智子先生、授業をはじめとした通訳を共に探求している仲間、そしていつも支えてくれている家族に、日頃の感謝をこの場を借りて申し上げたいと思います。

通訳は私に生涯学び続ける姿勢を教えてくれました。その心を忘れず、これからも通訳スキルを一層磨いていけるよう、精進していきたいと思います。ありがとうございました。

■指導教員 森 千代 ミドルベリー国際大学院モントレー校客員教授(日本語通訳)

まず、2024年も同時通訳グランプリを開催されるにあたり御尽力されましたJACIの皆様、そして審査員の皆様に深くお礼を申し上げます。昨年に引き続きミドルベリー国際大学院の大切な教え子である小松あろはさんが今年のグランプリを受賞できたこと、心から嬉しく思います。

あろはさん、小さいころから取り組んできた日本語と英語の学習、ICUでの勉強、そして今年1月からスタートしたMIISでの実践的な通訳トレーニングがこのような形でしっかりと実を結び、本当に嬉しいですね。素晴らしい結果を残せましたね!この秋からまた一年間MIISでのトレーニングが始まりますが、この受賞をバネにさらにパワーアップしたあろはちゃんと一緒に通訳スキルをプロレベルまで磨いていくことを楽しみにしています。

通訳という職業には「これで十分」という終着点はなく、常にさらなる高みを目指して成長し続けられる仕事です。私はそれこそがコミュニケーションを担う通訳の責任であり、最大の魅力だと思っています。大好きな語学を存分に生かして言葉のプロとしてキャリアをスタートしたい、日本語通訳を極めたいとお考えのみなさん、ぜひMIISで一緒に研鑽を積みましょう!

■指導教員 田村智子 国際基督教大学准教授 (通訳翻訳学)

 今年度の第6回JACI同時通訳グランプリで国際基督教大学(ICU)の教え子で現在ミドルベリー国際大学院モントレー校在学の小松あろはさんが見事優勝されましたこと、心からの祝福と御礼を申し上げます。小松さんはICUに入学した1年次より通訳技能習得に真剣に取り組まれてきただけでなく、学内外での訓練生による通訳活動においても常に積極的に貢献され、学会等の大きなイベントでは通訳者全員のまとめ役を率先して担うリーダー的存在として活躍されました。また技能の鍛錬はもとより、通訳翻訳学の体系的な理論習得にも励まれ、学士論文では通訳訓練性が必ず経験する社会学的問題の探求にも取り組まれました。そのような学部時代の確固たる基礎を踏まえ、大学院で更なる研鑽を積まれてきたことが今回の優勝につながったということで、言い換えれば、揺るぎない実力を身に着けた通訳者になるためにはどのように取り組んでいけばよいかの模範を、現在技能習得に取り組まれている学部生・院生の皆さんに示してくれた、と思います。

 最後になりましたが、主催者でありますJACIの皆様に深く御礼を申し上げますと共に、大変お忙しい中審査員を務められ多くの貴重なコメントを下さいました諸先生方に、心より感謝申し上げます。

【一般部門】

グランプリ ジャスティン・シュッツ

2020年6月、オペラ歌手として生きていく夢はコロナで断たれ、失意の中ドイツから日本へ戻った。その後半年間、今後どのようなキャリアを積むか悩んだ末、言語力を活かせる翻訳という「新天地」で再スタートを決意。元々、リサイタルの準備の一環で歌詞を英語や日本語に訳すのが好きだったためか、翻訳を楽しく思えるのに時間はかからず、指導してくださった先輩から見てもたちどころに上達していった。

翻訳を始めて数か月後、翻訳がこれだけ面白いなら通訳にも手を出してみたいという想いが芽吹いた。練習のメソッドも何も知らないながら、とりあえずニュースや好みのポッドキャストを通勤中に聞き、ほぼ無音のウィスパリングで同時通訳を試した。初めの内はもちろんボロボロだったが、歌のステージで味わってきた「楽しいヒリつき」を感じてしまい、気が付けば毎日の通勤が愉しい時間になっていた。

ポッドキャストに多少ついていけるようになった頃、ある会社が通訳者兼翻訳者を募集していると知り、駄目元で応募した。何故か書類選考を通過し、いざ面接へ。質疑応答後の翻訳テストはリラックスして臨むことができたが、通訳テストは声楽家の時の大一番より体が強張った。しかし、終わった後に「通訳のレベルに驚いています」と面接官からの嬉しい一言。2021年7月、晴れて通訳者としてのキャリアが始まった。

落胆の中で帰国してから4年、音楽とは別分野の同時通訳大会で思いもよらずグランプリを受賞し、さらには会社の同僚であるブライアンと1、2フィニッシュを飾れたのは、光栄であると同時に、苦い思い出が塗り替えられていく嬉しさもある。しかし、この結果に慢心せず、日英・英日通訳どちらでも、元の言語と遜色ないレベルの訳出を目指して、日々研鑽を積みたい。

大会の企画・運営に携わったJACIの皆様、審査員の皆様、プライベートな内容を吐露してくださったデントン・ウィリアムス様、地方の魅力を熱く語ってくださった菱田奈津紀様、そして視聴してくださった皆様、貴重かつ「ヒリつく」機会を与えてくださり、ありがとうございます。

準グランプリ ブライアン・デイ

この度は準グランプリを受賞できましたこと、大変光栄に存じます。私が今回のグランプリに参加した目的の一つは「顔パンチを喰らうこと」でした。

何事もそうですが、通訳は挑戦の場に飛び込み、自分の力量と向き合わされる回数だけ成長につながると思っています。実務でも学校でも、うまく訳せた成功と、伝わらなかった失敗の両方がやけに鮮明に記憶に残るのも通訳だと思っています。

2年弱前、応募要件も満たさないのに山形県の山奥のバーで鍛えた日本語力だけを武器にダメ元で社内通訳の求人に応募したとき。
思いがけなく合格通知を受けてから慌てて通訳学校に登録したとき。
そして、今回のグランプリの予選通過者リストにまさかの同僚のジャスティンさんの名前を見て「ガチんないと」と思ったとき。

どの場面も、第一に思ったのは「難しそう。楽しそう。やってみよう。」ということでした。

今回も、こんなにも優秀な仲間と肩を並べ挑戦し準グランプリまでできたことを嬉しく思うとともに、
自分にとっては新鮮な分野だからこそ様々に培いきれていない能力の求められるグランプリそのものや、
素晴らしいパフォーマンスを発揮された優勝のジャスティンさんやペアの山本さんを始めとするファイナリストの皆様にしっかりと顔パンチを喰らわせていただき、尊敬の念を込めて感謝を申し上げます。

このように駆け出しの通訳者が視野を広げ、同業者と楽しく切磋琢磨できる挑戦の場を設けてくださったJACIの皆様に感謝します。そして、今回の貴重な経験をしっかりと活かして、氷嚢を当てつつ来年も顔パンチを求め再挑戦したいと思います。ありがとうございました。

【実行委員長のメッセージ】

日本会議通訳者協会理事 小野陽子

オンライン開催になって4年目。もうそろそろ本当に慣れてもいい頃ですが、毎年、前年とは異なるトラブルが発生し、本年はタイマー不備が発生し、皆さまにご迷惑をおかけしました。何かしらのトラブルがあることが恒例になりつつあり、お恥ずかしい限りです。それにもかかわらず、ファイナリストたちが動じることなくスムーズに同時通訳を続けてくれたことに感謝しております。本当にありがとうございました。審査員の皆様、講演者のお二方、視聴者の皆様、準備不足のためご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした。

改めまして、お忙しい中、本年も長時間に渡る審査をお引き受けくださった鶴田知佳子様(JACI名誉会員 東京外国語大学名誉教授)、中山貴子様(株式会社 コミュニケーターズ 代表取締役)、工藤浩美様(株式会社 テンナイン・コミュニケーション 代表取締役)、桃原則子様(有限会社 M & Partners International 代表取締役)、木村由貴子様(株式会社 ブリジック 代表取締役)、トム・エスキルセン様(JACI認定会員)、マクウィリアムス・フリィ様(JACI認定会員)、森田系太郎様(JACI認定会員 シミック株式会社社内通訳者)に心よりお礼を申し上げます。

本年は学生の部の審議に例年以上の時間を要するほど、ファイナリストの実力が拮抗していたようです。最終的には満場一致ではなく多数決で決定したと聞きました。年を重ねるごとにファイナリストの実力が上がっていることを感じています。来年はさらに難しい審査となるかもしれませんがどうぞよろしくお願いいたします!

また、素晴らしいスピーチを提供してくださったデントン・ウィリアムス様と菱田奈津紀様にも心より感謝申し上げます。デントン・ウィリアムス様のLGBTQに関するスピーチも、菱田奈津紀様の地方創生に関するスピーチも非常に興味深く、印象に残るものでした。ほとんど休憩もないまま同じスピーチを二回繰り返すことは容易ではありませんが、お二人とも安定したスピーチをしてくださり、おかげでファイナリストたちは公平な状況下で同時通訳を行うことができました。本当にありがとうございました。

今年のグランプリの結果は上記の通りですが、皆さま、受賞おめでとうございます!決勝に残るだけでもすごいことなのに、さらにそこで勝ち抜く実力と運は今後の活躍を支える基盤になると思います。

今年は視聴者数が昨年の半分ほどでした。英日共に非常に興味深い内容のスピーチで、ファイナリストの同時通訳も素晴らしかったので、もっと多くの方に聞いていただけたら良かったのに、と残念に思いました。集客にもっと努めるべきだったと反省しております。来年はより多くの方々にご参加いただけるよう努めます。

最後に、同時通訳グランプリをご視聴くださった皆様にも感謝を申し上げます。ご視聴いただいた方々のおかげで、ファイナリストたちも適度な緊張感を持って取り組めたと思います。ご視聴いただき誠にありがとうございました。

本年の反省を踏まえ、来年こそはスムーズに進められるように精進いたします。来年もまたよろしくお願いいたします。