【第1回】通訳案内士のお仕事~北の大地から「コロナ禍の通訳案内士」
皆様、はじめまして。北海道を拠点に通訳案内士・通訳者として活動をしている飛ヶ谷園子と申します。先日(2021年6月20日)オンラインで開催された第3回JACI同時通訳グランプリの本選にて、スピーカーという大役を務めさせていただきました。そしてこの度、通訳案内士の仕事についての連載を始めることになりました。第1回目は、先日のスピーチの内容に沿いながら、コロナ禍における通訳案内士の現状についてお話します。
インバウンドの概況
3188万人—これは2019年に日本を訪れた外国人の数です。この中には出張・駐在・留学を目的とした訪日客も含まれていますが、統計によれば2800万人以上の外国人が観光を目的として日本を訪れていました。日本政府がビジット・ジャパン・キャンペーンを始めた2003年から訪日外客数は順調に増え続け、2011年に東日本大震災の影響で一度落ち込むものの、2012年以降は飛躍的に伸びていました。そして、この流れは2020年以降も続くと予想されていました。
ところが、2020年初頭、新型コロナウィルス感染症の世界的大流行が始まりました。私たちの生活や働き方が大きく変わり、多くの業界やそこで働く人たちが経済的苦境に立たされることとなりました。旅行業界も大きなダメージを受けた業界のひとつです。2020年の訪日外客数は411万人で、そのほとんどが本格的なパンデミックが始まる前の1月と2月の訪日でした。夏にはGO TOトラベルキャンペーンが始まり、国内旅行の需要が回復した時期もありましたが、いまだに苦しい状況は続いています。
コロナ禍の通訳案内士
通訳案内士の仕事について詳しくご存じない方のために、その内容をごく簡単にご説明します。通訳案内士の仕事は、日本を訪れる外国人旅行客に付き添い、移動・観光・食事・買い物などを予定通りスムーズに行えるよう案内をすることです。そのために、観光施設・飲食店・宿泊施設・お店やドライバーさんとコンタクトを取りながら旅程を管理することが大切な仕事です。それに加えて行く先々で観光案内をし、移動中などには歴史・文化・社会など日本についての知識を幅広く説明します。つまり、通訳案内士の仕事とは「外国人旅行客の日本での滞在をより楽しく快適にすること」であり、外国人旅行客が日本に滞在してはじめて成り立つものなのです。
新型コロナウィルスの感染拡大により外国人旅行客が来なくなり、通訳案内士の仕事はほぼゼロになりました。私が担当した最後のツアーは昨年3月5日に終わり、それ以降通訳案内士としての仕事は今まで1件もありません。現在は、翻訳・英語講師・リモート通訳などを細々としています。他の通訳案内士の中にはオンラインツアーのガイド、国内旅行の添乗員などをして観光の分野で仕事を続ける人もいれば、語学とも観光とも全く関係のない仕事に就いた人もいます。新しい道を見つけて忙しくしている人もいますが、私のまわりでは、コロナ前に比べて仕事も収入も減り、空いた時間だけが増えた人の方がはるかに多いと感じています。
そのような状況の中、多くの通訳案内士団体や旅行会社がオンライン研修を行うようになりました。いつか来るインバウンド復活の日を見据えて、今のうちに勉強したいと思う人にとってたいへん良い機会です。内容も多彩で魅力的な研修が多いため、あれこれと申し込んで忙しくなりすぎたという声もよく聞きます。私もパソコン画面の見すぎで慢性的な眼精疲労になりました。それだけ質が高く、勉強になる研修がたくさんあるということです。そして、同じように研修を受けて勉強している仲間がたくさんいると思うと、大きな励みにもなります。
私自身の印象では、コロナ禍が始まって以来、通訳案内士同士の情報交換は以前より活発に行われるようになったと思います。この厳しい状況をみんなで頑張って乗り越えようというメッセージがあちこちから伝わってきて、困難の時にこそ色々な人との連携や協力が大切なのだと気づかされる毎日です。
次回は、通訳案内士を講師として活用する観光庁の事業についてお伝えします。
データ出典:JNTO(日本政府観光局)
飛ヶ谷園子(ひがや そのこ)
北海道札幌市在住。全国通訳案内士(英語・ドイツ語)、英語通訳者。北海道通訳案内士協会理事。日本の漫画・アニメに興味のあるお客様とのコミュニケーションを強化するため、現在様々な漫画を読んで勉強中。