【第4回】通訳案内士のお仕事~北の大地から「アドバイザーとしての通訳案内士」
皆様、こんにちは。北海道の通訳案内士・通訳者、飛ヶ谷園子です。前回まで3回にわたって、今年の1月末から2月にかけて行われた「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」事業について、メインの講義についてお伝えしました。第4回目の今回は、宿泊施設で行ったオプション研修についてお話します。
通訳案内士に求められるもの
通訳案内士として外国人旅行客と一緒に旅をすると、色々なことに気付きます。日本の文化や習慣になじみがなく日本語がわからない旅行客が不便を感じないよう案内することが通訳案内士の仕事ですから、外国人の目線に立って見たり考えたりしながら仕事の準備をしますが、実際にツアーでお客様と接する中で「こういうことも不便に感じるのか」などと気付かされることも多々あります。経験を重ねるほどに「日本の当たり前は世界の当たり前ではない」という事例が自分の中に積み重なっていき、こうした経験こそがインバウンド対応のプロとしての通訳案内士に求められるものだと思います。
「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」は、そのような知識と経験を観光従事者の皆さんにお伝えするとても良い機会でした。研修は座学で行われましたが、私は自分が担当した初級研修の翌日に、受講者の数名がスタッフとして働くホテルを訪問し、施設の外国人受け入れ態勢について直接アドバイスをする機会を得ました。
ホテル訪問
このホテルは国内外の旅行客に人気の温泉ホテルで、冬の繁忙期には宿泊客の7割が外国人だということです。前日の座学研修にも参加していた3名の若いホテルスタッフと一緒に、大浴場と客室を見てまわりました。インバウンド受け入れに積極的な姿勢はホテル内のあちこちに見られ、館内表示は外国人にもわかりやすいものでした。例えば、温泉ホテルや旅館の大浴場では、入り口ののれんの色で男女の別を示したり、「姫」「殿」などの漢字のみで示したりと、外国人にはどちらに入ればいいかわからないという問題もよく指摘されます。また、スリッパを脱ぐ場所が日本人にとっては明らかでも、慣れない人にはわかりづらい場合もあります。しかし、このホテルではのれんにも英語で男女がわかりやすく書かれ、スリッパを脱ぐ場所や動線も明確でした。私からは、スリッパの識別用クリップの説明が日本語しかなかったので、外国人は他人とスリッパを共有することに抵抗がある人も多いため、英語の説明を添えること、スタッフが案内する際に一言お知らせすることを提案しました。
3名のスタッフの皆さんには、実際にお客様をご案内するやり方を見せてもらいながら館内をまわりましたが、言語の自信があまりないと言いながらも、自分の言語能力の中でできる限りのおもてなしをしたい、少しでもお客様に喜んでいただきたいという熱意が感じられたのがとても印象的でした。「注意事項をたくさん伝えると、お客様の楽しい滞在を邪魔することにならないか」という質問を受けましたが、それは通訳案内士がよく直面する問題でもあります。マナーをしっかり守ってもらうことと、滞在を楽しんでもらうことを両立するちょうどいいバランスを見つけることが、インバウンド対応では鍵となります。外国語で外国人に応対することを「やらなくてはならないこと」として仕方なく学ぶのではなく、前向きに学ぼうとする人たちが現場にいるということを知り、こういう人たちと協力してより良い仕事がしたいと、背筋が伸びる思いでした。今後インバウンドが復活して通訳案内業務が再開されても、このように他業種の人たちとお話しする機会は積極的に持っていきたいとあらためて思いました。
これまで「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」についてお伝えしてきました。次回からは、北海道での通訳案内士の仕事についてお話します。
飛ヶ谷園子(ひがや そのこ)
北海道札幌市在住。全国通訳案内士(英語・ドイツ語)、英語通訳者。北海道通訳案内士協会理事。日本の漫画・アニメに興味のあるお客様とのコミュニケーションを強化するため、現在様々な漫画を読んで勉強中。