【第5回】通訳案内士のお仕事~北の大地から「北海道の通訳案内士・実践編」

皆様、こんにちは。北海道の通訳案内士・通訳者、飛ヶ谷園子です。連載第4回目の前回まで、通訳案内士を講師として活用する事業についてお伝えしました。第5回目の今回からは数回にわたり、通訳案内士の仕事について、北海道での事情を中心にお話します。

北海道とその他の地域、それぞれの難しさ

私は主に北海道で活動していますが、たまに北海道外での仕事をすると、北海道との違いを実感することが多々あります。通訳案内士の仕事は、第1回で簡単に説明したように、おおまかに言って「旅程管理」と「ガイディング」です。前者には、1名から多い時には大型バス1台分(約40名)のグループの移動や各地での観光・滞在をスムーズに執り行なう技術が、後者には地域や訪問地について適切に説明し、質問に答えるための知識が求められますが、技術も知識も北海道とその他の地域では異なるものが必要になるのです。

初めて関東でツアーをした時にまず苦戦したのは、人と車の多さでした。「人が多い」「車が多い」というのは一般の旅行客も持つ感想だと思いますが、通訳案内士の目を通すとそれは「人の邪魔になることなく立ち止まって説明できる場所が少ない」「迷子を出しやすい」「自分の声が届きにくい」「渋滞が多く、想定以上に移動に時間がかかることがある」ということを意味します。北海道でも桜の時期の函館・五稜郭公園など、本州の有名観光地並みに観光客でごった返して渋滞が多く発生することもありますが、たいていの場所は広々としていて人が密集することは少なく、上で述べたような苦労をすることは北海道では比較的少ないと言えます。

反対に、北海道外の通訳案内士が北海道で仕事をする時、移動距離の長さに苦労するという話をよく聞きます。長時間の移動というのはそれだけで疲れるものですが、北海道では木しか見えない、または畑しか見えない道を何十分も車で走ることがよくあり、「お客さんに話すネタがなくて困った」という話です。クルーズ船の寄港地ツアーなど、バスに乗っている間はノンストップで話すことを指示される業務では特に大変です。

厳しい冬

冬の天候もまた、北海道で仕事をする中でよく問題を引き起こします。冬は北海道の観光のハイシーズンで、雪を楽しむ観光客で各地がにぎわいますが、大雪や吹雪のために交通機関が停止したり、高速道路や一般道が通行止めになったりすることが珍しくなく、その度に大幅に行程を変更したり代替案を探したりと、苦労を強いられるのです。実は連載第3回でお話した網走での研修も、吹雪のためにすべての交通機関が止まってしまったため網走まで行けず、「講師が来場できない」という理由で翌週に延期になったという経緯がありました。しかし翌週の出発の日もまた吹雪で、当初予定していた旭川経由のルートでは電車もバスも動かず、幸い動いていた釧路経由のルートの乗車券を買い直し、やっとの思いで目的地にたどりつきました。冬の北海道では、天候によるトラブルはそれほど頻繁に起こるのですが、北海道の通訳案内士はそういったトラブルにも慣れており、臨機応変に対応しながら業務を行っています。

寒さや雪によるトラブルでガイドやドライバーさんが冷や汗をかく中、お客さんは猛吹雪に大喜びというケースもあります。ある日、函館から札幌へ向かっている最中に、吹雪のため高速道路が通行止めになり、一般道でも「ホワイトアウト」と呼ばれる視界ゼロの危険な状態になったため、避難するようにガソリンスタンドに入ったことがあります。ドライバーさんと私はその先の道路や天気の情報を集めながら相談していたのですが、その横でお客さんは大はしゃぎでガソリンスタンドの雪かきを手伝っていました。雪が多くのトラブルの原因であるとともに、大切な観光資源だとあらためて実感したできごとでした。

今回は北海道と道外での通訳案内士について、主にツアー実践の環境の違いについてお話しました。次回はガイディングの知識についてお伝えします。


飛ヶ谷園子(ひがや そのこ)

北海道札幌市在住。全国通訳案内士(英語・ドイツ語)、英語通訳者。北海道通訳案内士協会理事。日本の漫画・アニメに興味のあるお客様とのコミュニケーションを強化するため、現在様々な漫画を読んで勉強中。