【JIF2023】長友英子「文化的な違いからくるさまざまな誤解や誤訳」
長友英子
韓国語の会議通訳、放送通訳としての第一世代。韓国語教育や通訳者教育にもかかわる。ハングルを初めて見たのは高校生のとき。映画のタイトルだった。大学時代に韓国語を学び始める。学んだ韓国語が韓国人学生に通じたことで、生き生きとした言葉として迫ってきて夢中になる。卒業後留学。ソウル大学の修士課程、帰国後筑波大学博士課程で韓国の教育史を研究する一方で、NHKラジオジャパンの韓国語放送や通訳の仕事を始める。NHKラジオのハングル講座で講師を担当したとき、通訳のトレーニング法を取り入れたところ、多くの反響があり印象的だった。会議通訳としては、首脳会談や大臣会合などでの同時通訳など多数。
文化的な違いからくるさまざまな誤解や誤訳
・韓国語の会議通訳者としての歩み
・文化的な違いからくるさまざまな誤解や誤訳の例
自己紹介をするときなどによく使う「よろしくお願いします」という挨拶。日本ではこれを受け「こちらこそよろしくお願いします」がよく用いられるが、韓国では「잘부탁합니다(よろしくお願いします)」を受けて「맡겨주세요 (お任せください)」と返すことに違和感はないという。かなり自信がないと「お任せください」とまでは言えないと思いがちな日本だが、韓国は、「お願い(부탁)」されたから、「任せてください」と応じているという発想だ。韓国語の「잘 부탁합니다(よろしくお願いします)」は、何かをお願いするときの表現であって、日本語のように、もろもろに対して漠然とよろしくという挨拶表現ではないのである。また、「お任せください」も、必ずしも自信がないと言えない言葉ではないという点で、日韓で違いがあると言える。
氏名の後につける敬称も一筋縄ではいかない。肩書があれば氏名、または姓の後に肩書+님(様)をつけて「~부장님(~部長)」。肩書がない人や肩書がわからない人に対しては、「〇〇씨(氏)」や「〇〇선생님(先生)」をつける。最近では肩書を問わない呼び方として、氏名に「님(様)」をつけた形もよく耳にする。なお、「씨(氏)」を用いる場合には、フルネームでないと見下した印象を与える。昔使用人に対し、姓に「씨(氏)」をつけて呼んだ名残だという。また、「씨(氏)」は、目上の人に対して用いると失礼になるので、これも要注意。