【JITF2021】マシュー・ペレー「通訳に活かせる演技スキル」
マシュー・ペレー
子供の頃から舞台の脚本を書き、19歳でエディンバラ・フェスティバル・フリンジにて独演でデビューしてからはパフォーマーとしても喜劇などの作品に出演して経験を積む。大学で複数の言語を学んだあとは会議通訳者としての訓練を経て、欧州委員会(ブリュッセル)のスタッフ通訳者として6年勤務。
その後はフリーランスに転向し、しばらくは通訳キャリアと舞台キャリアを別に考えていた。ただ、特にB言語への訳出を教える教育者になってからは、通訳と演技の世界は重複する部分が多いと気付き、俳優の訓練法は通訳にも活かせるのではないかと考えるようになる。これに気付いてからはコメディ寸劇のメソッドを活用した通訳者向けの訓練動画を制作したり、講義においては適切なレトリックや抑揚の戦略的活用についても教えている。
会議通訳者としては英語がA言語、スペイン語がB、フランス語、イタリア語、ポルトガル語はCである。プロの俳優としては英国を中心に海外の舞台公演にも参加実績あり。
通訳に活かせる演技スキル
本講演では、通訳者と俳優のスキルセットの比較から重複する部分を明らかにし、通訳者も活用できる俳優の訓練法、特に1900年代にサンクト・ペテルブルクで生まれたスタニスラフスキー・システムについて説明する。このシステムは感情に対する記憶、共感、そして内的動機を使うもので、現在でもハリウッドで広く普及している。口頭のコミュニケーションにおいて媒体は肉声だが、聞き手に伝わるメッセージは声の使い方で形を変えるので、通訳者は非言語コミュニケーションに注意しつつ、戦略的に抑揚を工夫して話者と「同化」することが重要になる。これを的確に実践することで、説得力をもって話者の意図を伝えられるからである。説得力に欠ける通訳は大根役者の演技と同じで、受け手はすぐに気づくが、これは実際にどのようなものなのか?避ける方法はあるのか?本講演では通訳教育者であり俳優でもある講師が自らの経験に基づき、説得力のある訳出をするために必要な要素やヒントを共有する。