【JITF2021】金水 敏「キャラクターを翻訳する—村上春樹作品を中心に—」

金水 敏(きんすい さとし)

1956年生。大阪大学大学院文学研究科教授・国語学専門分野。博士(文学)。東京大学大学院修士課程修了。神戸大学、大阪女子大学等を経て、2001年より現職。2018年6月より2021年5月まで日本語学会会長。2020年12月より日本学士院会員。主たる専門分野は、日本語文法の歴史および「役割語」の研究。主な著書に『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店、2003)、『日本語存在表現の歴史』(ひつじ書房、2006。新村出賞受賞)。また2017年より「村上春樹翻訳調査プロジェクト」を立ち上げ、報告書1〜4号を大阪大学リポジトリより無料公開している。

キャラクターを翻訳する—村上春樹作品を中心に—

日本語では“役割語”が大変発達しており、日本語のフィクションでは、役割語を含む発話スタイルを用いて登場人物のキャラクターを表現することが盛んに行われている。しかし一般的に、一言語の変種を他の言語に移し替えることは大変困難であることもよく知られている。役割語があまり目立たない言語から日本語に翻訳される場合は、キャラクターに応じて日本語の豊富な発話スタイルから適切なものを選んで適用することがよく行われているが、逆のケースでは、日本語の細やかな発話スタイルの使い分けは、翻訳に当たって概ね無視される傾向にある。しかし、キャラクターの表現上、何らかの形で他言語での表現を迫られる場合も一方で存在する。そのような事例として、村上春樹作品の翻訳のケースを採り上げ、検討を加えることとする。

日本通訳翻訳フォーラム2021