【第2回】カイシャの中身「人事労務」

みなさんこんにちは。先行きが見えづらい状況の中、時間の使い方を決めるのも簡単ではないですね。私もいろいろ考えてみるのですが、なかなか思うように進みません。一日の終わりに手ごたえを感じることがあまりなくて「これではアブナイ」と思うのですが……。JACIのオンラインコンテンツ担当者の「それなら早く書け」という声を想像してがんばります。

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「カイシャの中身」第2回は人事・労務です。以前の勤務先で専門にしていたので、少し詳しくお話ししようと思います。人事・労務部門の人が何か発言するとき、その意図や利害を読み取ることに役立つはずです。

◆人事・労務

人事も労務も共に人にかかわる分野ですが、対象とする範囲が異なります。だいたい以下のような分担になっています。

人事… 採用・キャリア設計・教育訓練・配属・評価・賃金
労務… 福利厚生・安全衛生・労働条件・労使交渉

現業を持つ企業(製造・エネルギー・運輸など)には労務担当の部署が独立していることが普通です。現業の割合が小さい場合には人事部門が労務関係業務も担当していることが多いですね。

他の機能と比べて人事関連部門は産業間・会社間で名称・職掌が大きく違う点に注意してください。大企業では細分化され、例えば人材開発担当が別部門になっていることもありますし、小企業では総務部が人事労務の機能を担っていることも普通です。

◆人事は何でも知っている?

人事関係の通訳で気を付けなければいけないのは以下の2点。
1 幹部会や取締役会で人事が議題になると発言が活発になります。専門に関係なく皆の関心事なのです。
2 企業により人事部門の役割がかなり違います。
A 積極的・戦略的・主導的な人事部(本社側が主導)
B 消極的・保全的・受け身な人事部(事業部門側が主導)
3 人事機能が階層化していることもあります。全社レベル・国レベル・部門レベルそれぞれに人事担当部門があったりします。

テレビドラマやコミックスで描かれる「人事は何でも知っている」が当てはまらないことも多いのです。

◆会社にはどんな人がいる?

会計や法律と違って人事の話がやっかいなのは企業によって、また文脈によって単語の意味が変わってくること。惑わされないように、基本的なところを押さえておきましょう。まず、「人」を表す用語について。

ここでは一般の営利企業(株式会社)の話をします。

【役員かそれ以外か】
会社にいる人の最も大きな区分は
1 役員
2 役員以外の人
です。会社法が定める役員は「取締役」「会計参与」「監査役」のみです。この人たちは会社に雇用されていないので、就業規則や労働協約の対象外だということだけ覚えておきましょう。役員には有給休暇はないし給与規程も関係ないのです。

さて、役員以外の人(社員・従業員・職員…呼び方に法律上の定義がない)はもう少し複雑です。分類の方法(切り口)が複数あります。

【雇用されているか・いないかという区別】
・出向(在籍出向)
在籍出向という制度があります。A社の社員がA社に雇用されたままB社とも雇用関係を結び、B社の指揮命令下に入ります。外から見るとあたかもB社の社員のように勤務するというもの。B社の就業規則に従っていますが、この人はA社から給料を受け取りA社の健康保険証を持っています。

・派遣労働者
派遣労働者(派遣社員)が派遣元事業主と雇用契約を結び、派遣元事業主が派遣先事業主と労働者派遣契約を結びます。派遣労働者は派遣元とのみ雇用関係を持ちます。

【管理監督者とそれ以外という区別】
役員は完全に労働法規の枠外にありますが、社員でも管理監督者(管理職)とそれ以外(労働者)という区分があります。管理職は経営者に近い立場なので仕事のしかたは自分で決めて管理すべきという考えです。一方、管理職でない労働者が使用者の都合で「いいように」働かされることがないよう、労働法は使用者(会社)にいろいろな制限(賃金の計算・支払い方、労働時間、休日、各種休業制度など)を課しています。

労働組合に加入できるのは管理監督者以外です。組合が労働者の過半数を代表していれば経営側と労働協約を結ぶことができます(労働条件など)。経営側が時間外労働を労働者に命ずるためには労働協定が締結されていることが条件です。労働基準法第36条に規定があるので36協定(さぶろく/さんろくきょうてい)という用語を聞いた人もいると思います。

参考:厚労省の36協定に関するリーフレット

労働組合がない場合の「労働者の過半数を代表する者」は社員互助会の代表者になっている場合もあります。

管理監督者には時間外労働の管理が適用されません。英語で exempt (除外)と呼んでいますが、最近の裁量労働制の議論では「エグゼンプト」と英語のまま使われています。

【期限の定めがあるかどうかという区別】
いわゆる「正社員」は「期限の定めのない労働契約」を雇用主と結んでいます。厳密には「正社員」は「契約社員」でもあるんですね。

「え? 契約書に印鑑押してないけど?」
と新入社員さんは言うかもしれませんが、雇い入れ通知書(労働条件通知書)を渡され、就業規則を見せられて異議を申し立てなかったら(労働条件に合意したら)労働契約が成立すると解されています。

世間一般で言う「契約社員」は「期限の定めのある労働契約」を結んでいます。働く期間の始期と終期が明記されている契約書を取り交わします。

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人事労務の前半は人事部門の位置づけと企業で働く「人」の区分について説明しました。次回の後半では頻出用語の解説をしていきます。


白倉 淳一

フリーランス日英通訳者・日本会議通訳者協会会員
通訳者に転身する前には大企業で会計・資金管理・人事労務・企業グループ再編・情報システムの大規模更新を当事者として経験している。社会保険労務士有資格者・第一種衛生管理者・放射線管理手帳保有。