【第1回】通訳留学奮闘記~梨花女子大学校通訳翻訳大学院編~「アラフォーの新人ですが大学院留学に挑戦します」
34歳でハングル文字から韓国語学習をスタートさせ、40歳になる今年、韓国の通訳翻訳大学院に留学することになりました――。
このように話を切り出すと、なぜ韓国語? なぜ通訳? なぜ大学院? なぜ留学?……などと絶えず質問をいただくのが、もはやルーティーンのようになっています。
私・中村かおり(なかむら・かおり)は2023年3月から韓国ソウルの梨花女子大学通訳翻訳大学院(修士課程・韓日通訳専攻)にて、通訳専門訓練を受けることになりました。
これから2年間、慣れない海外での生活や学校のプログラムなどに奮闘する様子を通じて、「通訳のための海外留学」のリアルな実態をお届けできればと思います。
今回は冒頭の「なぜ?」に答えながら、留学することになったきっかけと新学期スタートまでの生活についてご紹介します。
なぜ韓国語? なぜ通訳?
私が韓国語学習を本格的にスタートさせたのは2018年の冬のことです。
元から「近くて遠い国」である隣国・韓国に少なからず関心はあったのですが、進学や就職を理由に韓国語の勉強をずっと後回しにしていました。ところがマスメディア(報道記者・書籍編集者)の仕事を辞めてから気分転換で観光に訪れたソウルで、韓国語を独学で学んだという友人が通訳してくれるのを目の当たりにしながら、どういうわけか「なぜ私が通訳する側ではなく、してもらう側なのだろう」と悔しく感じてしまったのです。そこから帰国して数日後には初級韓国語のレッスンを受け始めました。
いざ始めてみると、日本語との不思議な類似性と相違性、日本と似ているようで大きく異なる文化慣習の魅力にひき込まれ、1年半後には「もっと負荷をかけて学習したい」と通訳養成のレッスンを受講するまでになりました。
「話者が表現しようとする内容を汲み取って素早く整理し、聴衆にとって一番伝わりやすい言葉で伝える」という通訳のトレーニングは報道記者や編集者の仕事とも通じるものがあり、下手の横好きながらも全く飽きることがありませんでした。どのような通訳になりたいかというよりもただ単純に、通訳のスキルをもっと磨きたいという思いが先に大きくなっていったように思います。
なぜ大学院? なぜ留学?
大学院進学を決めたのは韓国語の学習開始から3年ほど経ったころでした。「もっと学びたい」「さらにパワーアップしたい」というのが第一の理由です。
併せて、「通大(通訳翻訳大学院)卒業」が新人通訳の基礎実力を示す一つの指標ともなり得る韓国において、私のような完全未経験者が仕事を得るためには卒業資格が大きな足掛かりになるだろうという判断もありました。
出来れば日本でトレーニングを受けたいという思いもあったのですが、英語などの他言語と異なり、国内の韓国語通訳養成スクールはその選択肢がかなり限られています。現地に住みながら学ぶことで得られるものも多いだろうと、韓国への留学を決意しました。
どうやって大学院入学試験に合格したか
大学院入試の準備は、韓国と日本でそれぞれ行いました。
2020年9月から翌年2月までの6か月間は、ソウルにある韓国外国語大学の韓国語文化教育院(一般に「語学堂」と言われる語学研修機関)で通翻訳課程の授業を受けつつ、夜は入試対策の予備校に通学。その後、帰国して2021年3月から2022年10月までは同じ予備校のオンラインレッスンを受けました。
私が学んだ予備校では基本的な逐次通訳やサイトトランスレーションの練習と併せて、受験校の試験スタイル別に
「一気に5分程度ノートテーキングして要約作文を書く(AB/BA)」
「与えられたテーマに沿って論述作文を書く(AB/BA)」
「初見の原稿を朗読してメモリーする(BB)」
「朗読音声を聞いてメモリーする(AB/BA)」
「時事用語の解説や自分の意見をB言語で述べる」
などのトレーニングを行います。
2時間のレッスンを週2〜3回、試験直前期には週4〜6回ほど受講しました。
目標としたのは、韓国で通訳翻訳大学院の2大名門校と言われる「韓国外国語大学」と「梨花女子大学」です。憧れの先輩方みなさんがいずれかの卒業生であること、努力家で意欲あふれる優秀な予備校仲間がもれなくこの2校を目標にしていたこと、そして正直なところ卒業後の進路に大きく影響するであろうネームバリューなども考慮しました。
その結果、約2年間の準備期間を経て2022年秋、梨花女子大学通訳翻訳大学院に合格しました。
人生初・海外でのワンルーム賃貸契約
合格通知を受け取ってから最初にしたのが家の契約です。
大学の寮もあるにはあるのですが入居の可否が明らかになるのが新学期スタート(3月)の数週間前で、「寮の抽選に落ち、授業開始を目前にして不動産屋を駆けずり回る」という最悪の事態を避けるため、当初から寮は諦めてワンルームを借りることにしました。
韓国は何事も「(日本の感覚からすると)ギリギリ直前に始めて短時間のうちに決める」傾向があるのですが、賃貸物件巡りも同様で、入居予定(1〜2月)の2〜3か月ほど前に問い合わせたところ「そんな先の入居日では部屋は紹介できない」と断られてしまいました。
そこで日本にいる間にインターネットの仲介サイトを見ながら、良さそうな物件と不動産仲介業者の目星をつけ、12月下旬に再び渡韓しました。そこからはあっという間でした。
訪問当日の朝に仲介業者へ電話連絡してアポイントメントを取り、物件をいくつか見せてもらったあと気に入ったものがあればその日のうちに契約――という具合です。私が住む地域には梨花女子大学の他にも大学が多数あり、12月下旬〜2月は賃貸ワンルームの争奪戦となります。仲介業者にも「契約するなら今日中に連絡して。明日には無いから」と繰り返し念を押されました。
なお、日本の「敷金」に該当するのが「保証金」です。大学周辺のワンルームですと保証金500万〜1,000万ウォン(約55万〜110万円)の物件が多い印象でした。契約時、家主に100万ウォン(約11万円)を支払い、残りの保証金と入居月の家賃(私の場合は60万ウォン)を入居日までに払います。これとは別に、仲介業者への手数料(同25万ウォン)も支払いました。
このとき、支払い記録を残すために銀行振込(インターネットバンキング)を使うのが一般的なのですが、外国人登録が済んでいない外国人にはそれができません。私は現地に住む友人に代わりに振り込んでもらいましたが、それも難しいという方は日本の海外留学代理店などを頼るのも手かもしれません。
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こうして友人の手を借りながら何とか住居を確保し、一旦日本に帰国して入学手続きなどを済ませたあと2月中旬に再び渡韓してまいりました。ホームセンターと自宅を往復しながら家財道具を揃え、やっと住まいらしい空間が整ったところです。
次回は3月2日スタートの新学期の様子を中心にお伝えしようと思います。
中村かおり
韓日通訳者を目指すライター。マスメディア業界での記者・編集者生活を経て独立後、2018年1月の初ソウル旅行をきっかけに34歳で韓国語学習をスタートさせる。2020年秋から半年間、韓国・ソウルでの語学研修に参加。2023年3月から梨花女子大学通訳翻訳大学院(修士課程・韓日通訳専攻)にて通訳専門訓練中。