【第3回】通訳留学奮闘記~梨花女子大学校通訳翻訳大学院編~「通大1年生、第1学期の1週間」
34歳でハングル文字から韓国語学習をスタートさせ40歳を目前に韓国の通訳翻訳大学院(=通大)に入学した私が、「通訳のための海外留学」のリアルな実態をお届けします。
今回は、学期中における私個人の「平均的な1週間の過ごしかた」についてです。
課題に始まり、課題で終わる
結論から言いますと、学期中の生活=課題に追われる生活、です。
常に膨大な量の課題に追われています。奇跡的に仕掛かり中(未提出)の課題がないタイミングが1日でもあれば、思わず小躍りしてしまうくらいです。
そのため「1週間のスケジュール」も、ほぼそのまま「課題との格闘スケジュール」となります。
なお、1日の基本的な流れは以下の通りです。
授業は毎日。1コマの日もあれば2コマの日もあります。
1. 起床(6:30ごろ)
2. 朝のルーティーン(シャドーイング、音読、ST練習)
3. 授業
4. スタディ
5. 課題
6. 個人の学習(授業の復習・読書含む)
7. 就寝(25:00ごろ)
スタディとは自主的に行うグループ学習のことです。2人もしくはそれ以上のメンバーで行います。
私の場合は2人(1対1)で行うスタディがメインで、同じ学校の同期や他の学校(韓国外国語大学)に通う韓国語ネイティブの友人などと一緒に、朗読(発音・抑揚のチェック)、ST、逐次の練習をしています。
頻度は人それぞれで、私は1日1回程度ですが、先輩の中には「1日2回やった」というツワモノもいらっしゃいます。
また基本スケジュールは上記の通りですが、抱えている課題の量によって「4. スタディ」や「6. 個人の学習」の時間、あるい睡眠時間が削られていくことになります。
それでは曜日ごとの課題提出の流れを見ていきましょう。
月曜日:逐次BA(日→韓)の課題提出
次回授業(逐次演習)で扱うテーマの下調べを行い、その概念や歴史的背景、用語などを整理してクラス全員が閲覧可能なページにアップロードします。
例えば「ディープフェイク」がテーマの週であれば、基盤となる技術、発展を遂げてきた経緯、現状の課題、各国の対応(規制の動き)を日韓両国のニュース記事や公的機関・企業の資料などをもとにまとめ、用語は日/韓の対応表を作って逐次演習の際に使える状態(=口から出る状態)にしておきます。
なお逐次AB(韓→日)の授業も同様に予習必須となっていますが、特に提出は求められませんでした(担当教授が異なります)。
火曜日:韓国語の課題提出
作文、通翻訳論文の要旨発表、首相演説同時通訳のクリティック(批評)、YouTube講義映像の内容要約、演説文のパラフレージング、絵本の翻訳(日→韓)など、毎回異なる課題が出されるのが韓国語の授業です。
「通大カリキュラムの中で一番ラクな授業」と教授自ら称するだけあって、他の科目に比べれば負担はやや軽めだったのかもしれません。
とはいえ、例えば「演説文のパラフレージング」は、「一役買う」「後には引けない覚悟」「ご臨席いただく」「ご活躍をお祈り致します」などの韓国語表現を別の複数のパターン(韓国語)に言い換えていく――という内容で、非ネイティブにとっては決してラクとは言えない代物でした。
水曜日〜金曜日:各課題に取り組む
この日に提出期限を迎える課題はありませんが、週末の〆切ラッシュに備えてどれだけ進めておけるかが勝負となる3日間です。
スタディもこの期間をメインに行います。
土曜日:実務翻訳、文章口訳の課題提出
1週間の中で最も多くの体力と精神力を消耗するのがこの日です。
「実務翻訳」の課題はA4用紙2〜5枚ほどの文章あるいはPPT資料を翻訳するというもので、皆さんも容易に想像のつくスタイルかと思います。
問題は「文章口訳」の課題で、量が尋常ではありません。以下の5点です。
(1) 授業中の自身のパフォーマンスに対するセルフクリティック
ST(日本語あるいは韓国語の原文を目で追いながら通訳していく)を行う授業なのですが、自分が発表した部分の録音を文字起こししたあと、授業中に教授やクラスメートから受けたクリティックを反映させた上で、自分で再びセルフクリティックを行います。
(2) パラフレージング
特に訳しにくかった部分を中心に他の表現パターンを調べ、セルフクリティックと合わせてA4用紙2〜3枚ほどにまとめて提出します。
(3) ST録音
授業で扱ったテキストを復習し、STを録音して提出します。
少なければA4用紙1〜2ページ、多いときは10ページほど。録音時間にして20分ほどです。
(4) 朗読録音
授業で扱ったテキストのうち、非ネイティブ言語のもの(私の場合は韓国語テキスト)を朗読練習して録音し、提出します。A4用紙2ページ程度です。
(5) 発表資料作成
こちらは担当者のみですが、次回テーマの概念や最新ニュース、関連用語などを10分程度にまとめて非ネイティブ言語で発表します。その資料も課題として事前提出が求められます。
これら全てをクラス全員分、1人の教授がチェックしてくださいます(私のクラスは6人です)。
ところがご本人はさほど負荷をかけているような認識ではないようで、学内のカフェで偶然お会いしたときは「中村さん…あなた随分疲れているようだけど、どうしたの?」と心配そうな表情で優しく声をかけてくださいました(笑)。
いえ、あの、あなたの出す課題のせいです……。
日曜日:逐次AB(韓→日)の課題提出
こちらも授業時間内に録音しておいた自分のパフォーマンスを文字起こしし、簡単なセルフクリティックを行います。
あるいはSTの録音(A4用紙5枚程度)が課題となることもあります。
決して簡単な課題ではありませんが、「文章口訳」の課題さえ終わればあとは何でもラクに感じられるのですから、不思議なものです。
* * *
以上が、私の1学期の1週間の様子です。
「なんだ、こんなものか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私にとっては非常にしんどい4か月間でした。
教授陣からは「2学期はもっと大変」と言われており、今からとても楽しみです……(震)。
中村かおり
韓日通訳者を目指すライター。マスメディア業界での記者・編集者生活を経て独立後、2018年1月の初ソウル旅行をきっかけに34歳で韓国語学習をスタートさせる。2020年秋から半年間、韓国・ソウルでの語学研修に参加。2023年3月から梨花女子大学通訳翻訳大学院(修士課程・韓日通訳専攻)にて通訳専門訓練中。