【第6回】通訳留学奮闘記~梨花女子大学校通訳翻訳大学院編~「期末テスト、終わりました!」
34歳でハングル文字から韓国語学習をスタートさせ40歳を目前に韓国の通訳翻訳大学院(=通大)に入学した私が、「通訳のための海外留学」のリアルな実態をお届けします。
今回は「2学期の授業とそれぞれの期末テスト」についてです。
あっという間に終わった2学期
9月1日に始まった新学期でしたが、あれよあれよと時間は過ぎ、12月21日に最後のレポートを提出してあっけなく終了となりました。
今学期受講したのは6科目。授業の具体的な内容は次のとおりです。
《必修科目》
1. 同時通訳入門
2年生(3学期)から本格的に始まる同時通訳の訓練を前に、難易度低めのテキストを使って同時通訳ブースに慣れてみる、という趣旨の授業です。元々これまでの学年ではサイトトランスレーションの授業だったものが、「第2学年の1年間だけでは同時通訳に慣れるには不十分」だとして、我々の学年から同通入門の授業へと変更になったとか。
事前に与えられたテキスト(課題)を各自サイトトランスレーションしてきた状態で臨み、授業当日は教授もしくは同級生がそのテキストを読み上げるのを聞きながらそれぞれブースの中で同時通訳します。
その後、同じテーマ(国際情勢、I T、文化など)の初見のテキストを教授が極限までゆっくり読み上げ、それも同時通訳して練習します。
「難易度低め」「極限までゆっくり」とは言っても、人生初の同時通訳に挑む我々学生にとっては常に脳内パニック状態。聞いて理解し、即座に反対言語に転換して、口から出す――この一連の流れがなかなかうまくいきません。さらには日本語にも韓国語にも同音異義語があるため、一発で正確に聞き取るのに手こずってしまいます。「イシ?……意志だろうか、意思だろうか?」などと考えているうちにテキストはどんどん先に進んでしまうのです。
そしてテキストが終わるごとに、教授の厳しいフィードバックをマイク越しでいただきます。不思議なのは、教授は自ら朗読していても我々のパフォーマンスを正確に聞き分け、それをきちんと記憶していて的確に指摘を下さるという点です。マルチタスクとはこういうことなのか……と毎度感嘆するばかりでした。
2. 逐次通訳(日韓)
3. 逐次通訳(韓日)
こちらは1学期に引き続いての必修科目。テキストの難易度、読み上げのスピードが上がった点などが1学期との違いでしょうか。
担当教授によって進行方法は多少異なりますが、①原文テキストを数段落ずつ読み上げ、②ノートテイキングして逐次通訳、③教授もしくは同級生からのフィードバック、という流れは共通です。テーマは経済、国際、IT、文化などの分野で、ニュースの解説記事や講演会の原稿などがテキストとなることが多かったように思います。
《選択科目》
4. 実務翻訳
こちらも1学期に引き続いての科目ですが、通訳専攻では選択科目の扱いとなっています。新聞のコラムや行政文書、契約書から文芸作品まで、週ごとに様々なジャンルの文章を翻訳し、授業はそのフィードバックを中心に進行します。
毎回身に染みて感じることですが、原文が言わんとするものを正確に読み解く……ということがいかに難しいか。さらにそのニュアンスを生かしながら反対言語で表現するわけですが、母語であれ外国語であれ、自分の語彙力・表現力の無さには嫌気がさしてしまいます。
5. 通訳現場の理解
梨花女子大通大を卒業した先輩方を中心に外部から講師を招いて、通訳のリアルな現場などについて話を伺う授業です。
フリーランスとして活躍中の先輩、卒業してから会社を立ち上げた先輩、アナウンサーとして活躍している先輩、医療分野の大学院に進学した先輩など、登壇する講師は多岐にわたります。それぞれ卒業後の活動内容や現在に至るまでの道のり、現場での仕事内容、在学中の勉強方法や就職に向けて準備しておくべきことなど、学生側の疑問点に全て答えてくれるものです。
日本語だけでなく、英語、中国語、フランス語の学科の学生と一緒に受講する合同授業のため、学生数は40人ほど。先輩方に専攻言語(日・米・中・仏)で講演していただきそれぞれの学科の学生が逐次通訳する特別講義も1回ずつありました。
6. 通翻訳とテクノロジー
通翻訳に活用可能な新しいテクノロジーについて学び、体験してみる授業です。
Google翻訳やDeepLなどの機械翻訳ツールやChatGPTなどの生成AIサービスはもちろんのこと、zoomの通訳者設定機能、Sketch EngineやInterpretBankといった用語集作成ツール、同時通訳練習に有効なAudacity、テキストを入力すれば音声データに変換してくれるVrewなども扱います。無料で使えるものはアカウントを作成して実際に操作し、そうでないものは教授のデモンストレーションを見学しつつ学んでいきました。
特に、Vrewで音声を作成し、それをAudacityで流して同時通訳のトレーニングを行う、必要に応じて自分の音声をCLOVA Noteで文字起こししたのちセルフクリティックする、という活用法が個人的にはお気に入りです。全てほぼ無料で完結するので3学期以降も積極的に活用しようと思っています。
それぞれの期末試験
「ところで通大の期末試験ってどんな感じなの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。あくまでも一例ですが、私が受けた今回の試験をご紹介します。
・同時通訳入門
通訳ブースに入って行います。10分程度の音声(ゆっくりめ)を聞きながら同時通訳。その後、別のテキスト(A4用紙2枚程度)を初見でサイトトランスレーションしました。どちらもマイクを通して自動で録音されているため、特に提出するものはありません。
・逐次通訳(日韓)
順番に教室に呼ばれ、目の前で教授が読み上げた内容をノートテイキングして逐次通訳します。自分で録音したものをその場で教授のメールアドレスに提出して終了です。分量はA4用紙1枚程度だったでしょうか。録音音声で6分程度です。
・逐次通訳(韓日)
こちらは通訳ブースに入って行います。ブースに入ると一度に複数人で受けられるので早く終わる、というメリットもあります。
A4用紙1枚程度の分量を3回に分けて教授が読み上げ、ノートテイキングして逐次通訳、というものでした。
・実務翻訳
日韓の試験(中間テスト)はコンピューター室で行いました。A4用紙1枚分の原文テキスト(新聞の特集記事)の訳文を教室のパソコンを使って作成し、1時間以内に学校のシステムに提出します。
韓日の試験(期末テスト)は自宅受験で、出題から24時間以内に指定のメールアドレスに提出する、というものです。お題はA4用紙2枚半分くらいの美術コラムでした。
・通訳現場の理解
・通翻訳とテクノロジー
この2つの科目は試験がなく、レポート提出のみです。通訳現場の理解は「特別講義の内容の中で面白かった、または自分の通訳能力の向上に役立ったテーマ」、通翻訳とテクノロジーは「学習した内容を適用して技術を活用した通訳・翻訳の実施及び結果報告」がレポートのテーマで、それぞれ5枚程度作成して提出しました。
* * *
ここまで2学期の中身をざっと振り返ってみました。
さあ、いよいよ1年生最後の長期休みに突入です。2年生からはさらに難易度が上がるので、冬休み期間中の自己学習がとても重要となります。気を引き締めて精一杯勉強していこうと思います。
中村かおり
韓日通訳者を目指すライター。マスメディア業界での記者・編集者生活を経て独立後、2018年1月の初ソウル旅行をきっかけに34歳で韓国語学習をスタートさせる。2020年秋から半年間、韓国・ソウルでの語学研修に参加。2023年3月から梨花女子大学通訳翻訳大学院(修士課程・韓日通訳専攻)にて通訳専門訓練中。