【第11回】柴原早苗の通訳ライフハックス!「本の読み方」

通訳者にとって大事なのは、「業務当日までどれぐらい沢山準備しているか」です。依頼の連絡を受けた時点で仕事は開始していることになります。よって、通訳料金というのは「当日だけの業務料金」ではなく、「依頼時点から当日に至るまでの準備時間を含めたのがギャラ」であると言えるでしょう。

私が準備段階でとりわけ意識しているのが、「いかに広く浅く狭く深く(と言うと結局『トータルに』ということになるのですが!)専門知識を集中的に頭に叩き込むか」です。その中でも大きな割合を占めているのが「読書」ということになります。そこで今回の「ライフハックス」では、書籍の読み方について8つのポイントをご紹介します。

1.紙の本?デジタル情報?

 今の時代、自宅から一歩も出なくてもネットにアクセスさえできれば、仕事の準備は進められるでしょう。最新情報を検索する、学術論文をネットからダウンロードするなど、もはや何でもできるという恵まれた状況下に私たちはいます。

 私の場合、「書籍とデジタル情報のどちらを選ぶか?」と問われた場合、自分なりに使い分けをしています。「ピンポイントで最新情報を入手する」のが目的であれば、デジタルの情報を検索して勉強します。一方、「体系的に素早く学びたい」場合は、今でも「紙の本」を重宝しています。これは紙の本が私にとっては読みやすいからなのですね。よって、以下は紙の本の活用法についてのご説明となりますが、適宜デジタル情報においても応用できるかと思いますので、活用してみてくださいね。

2. 紙の本、借りる?買う?

 「欲しい」と思った本を手に入れる際、かつては自分で書店へ出向き、店頭で買うしかありませんでした。でも今はクリックひとつで翌日に配達してもらえる時代です。具体的な書名が分かっているのであれば、もちろん、お金を払って購入するという方法もアリでしょう。けれども私の場合、あえて「借りる」という方法も取っています。それは、「借りる=返却期限がある=集中して読まざるを得なくなる(自分を追い込める)」というメリットが大きいのですね。書き込みができないからこそ、短時間で読み込む、大事な個所は抜粋するなどの作業が、私の場合、記憶に残るようです。

3.最初は子ども向けの易しい本から

 いきなり専門出版社の本を読もうとしても、そもそも自分に知識がない場合、たとえ母語で書かれていたとしてもチンプンカンプンになってしまうでしょう。書籍の難易度を下げることは自分への敗北でも恥でもありません。よって、私の場合、子ども向けの百科事典(「ポプラディア」を重宝しています)にまずはあたるようにしています。他にも各種図鑑や若い世代向けのジュニア新書なども実に充実しています。そうした「読み仮名付きで図解説明が多く、易しく書かれたもの」から読み進めていくと、基礎知識を頭に叩き込むことができます。その後に難易度を徐々に上げていけば良いのです。

4.発行年は最新のものから

 同じトピックの本を複数見つけたとしましょう。「古い出版年のものから徐々に新しい年のものへ読み進める」という考え方もありますよね。でも私はあえて「出版年が新しいもの」から読むようにしています。これは、特に専門分野の場合、最新の本であれば過去の学説などが網羅されていることが多いからです。巻末の参考文献なども新しいものが列挙されていますので、さらに調べ物をする際、新しい情報に手早くありつくことができます。

5.まえがき→目次→あとがき

 小説である場合は最初から一字一句を読みたいところですが、仕事用の読書であれば、大胆に読むことが肝心です。私は紙の本を手に取ると、まずは「まえがき」から読み始めます。ここを読むことで本書のポイントがわかるからです。次に「目次」にしっかりと目を通します。チェックしておきたい箇所があれば、印(付箋紙)を付けておきます。その後は「あとがき」へと飛び、改めて著者が本書で何を一番言いたかったのかを把握します。もちろん、巻末の著者プロフィールもチェックしておきます。

6.索引は必ず確認

 上記(5)で読むべき個所を把握し、なおかつその本に「索引」が付いているのであれば、索引の項目すべてに目を通すと良いでしょう。自分が必要としているキーワードがあれば、こちらにも印をつけるか付箋紙を貼り付けます。

 この一連の作業が済んだ時点で再度本の最初に戻り、読むべき個所を冒頭からどんどん読み進めていきます。すべてを読まなくても構いません。大事なのは、自分が通訳業務で必要としている情報を効率的かつ素早く入手することなのです。

7.「空気入れ」

 必要な箇所だけ拾い読みをしたら、最後にまた本の最初に戻ります。そして「読まなかったページ」すべてに空気を入れるような感じでめくっていきます。こうすることで、「飛ばしたページに眠っている有益な情報」にありつけるかもしれないのですね。せっかくご縁があって手にした本ですので、「とりあえずすべてのページに空気を入れてあげること」が私にとっては儀式のようになってもいます。

8.参考文献もチェックを

 書籍によっては章末や巻末に参考文献が載っています。ぜひこちらもチェックしてみましょう。有益そうな本を見つけ、なおかつ通訳業務日まで余裕があるようでしたら、ぜひそうした本にも目を通すことをお勧めします。さらに知識を深められるはずです。

 以上、今回の「ライフハックス」では本の読み方についてご紹介しました。本というのは「すべてを」「きちんと」「最初から最後まで」読もうとすると、その量に圧倒されてしまいますよね。でも、仕事用と割り切れば大胆な読み方もできるはずです。ぜひみなさんも限られた準備時間を有効に活用なさってくださいね。


柴原早苗(しばはら さなえ)

放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳業に従事。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。