【第2回】柴原早苗の通訳ライフハックス!「手帳術」
今月は「手帳」に関してお伝えします。みなさんはどのような手帳をお使いですか?今の時代、アプリや多機能型デジタルツールなど、スケジュール管理も多様化しています。それでもなお「紙の手帳」に私はこだわります。
1.なぜ紙の手帳?
もちろん人それぞれ好みは異なりますが、私の場合、「自分の手で書いたこと」は強烈に記憶されます。手帳を開き、日付を確認しながら仕事の予定を書き込むことで、いつ・どこで・どのような仕事なのかが頭の中に映像化され、記憶されるのです。手で書きながら仕事に向けた「やることリスト」も書き込みます。紙の手帳であれば、改行ボタンを押したり漢字の変換キーを押したりする必要がありません。思いついたら殴り書きでも即書き留められるのが、紙手帳の強みです。
2. 選び方
デザインや重さ(ページ数)、サイズや日付の見やすさなどから選ぶことをお勧めします。私の条件は「見開き月間カレンダーと週間バーチカルページがある」「デイリーページは時間枠が縦に記されている」「4月始まり」の3点です。様々な手帳を使ってみた結果、ここ数年は「NOLTYキャレルA6バーチカル1」を愛用しています。巻末情報ページが少ないので軽量ですし、カバーにはペンホルダーもあります。手帳選びは英語学習と同じ。試行錯誤を経ていけば、必ず自分に合うものが見つかります。
3. バックアップの必要性
以前私の通訳仲間が「仕事でノーショーをしてしまった!」と言っていました。聞けばPCのカレンダーソフトと紙版手帳を併用しているそうです。メールで業務連絡を受け、そのままPCに入力したものの、手帳に書きそびれてしまったとのこと。持ち歩きには紙版手帳を使っているため、うっかり確認せず仕事で穴をあけてしまったのだそうです。私の場合、業務依頼時点ですぐに手帳に書き込みますが、万が一、手帳を無くしたときのために冷蔵庫に貼ってある家族カレンダーにも書いています。
4. 連絡先電話番号は必ず記入
メールでやりとりする時代とは言え、緊急時はやはり口頭で伝えるに越したことはありません。電車の遅延をはじめとした突発事態の場合、担当者に直接連絡できれば安心です。「メールで連絡したから大丈夫」と思ったときに限って、相手はスマホを自宅に忘れてきた、などということもあり得るのです。先方の会社固定電話番号さえ控えておけば万が一のときにも安心です。
5. やるべきことはとにかく書き込む
仕事の予定はもちろんのこと、プライベートや家事、読みたい本など、私は備忘録として手帳を活用しています。大事なのは「思いついたらすぐに書き込むこと」。忙しい毎日ですので、記憶力に頼るより、記入して頭からいったん消去した方が他のことに集中できます。なお、記入時には文頭に□を付け、終了時には☑を入れています。一日の終わりに達成項目が多いと、それだけで充実感を抱けます。
6. 仮の予定も書きこむ
通訳業務の場合、「仮案件」として打診されることがあります。そのような場合、私は鉛筆で該当日に「仮」と印をつけて記入しています。さもないと、仮案件の依頼自体を忘れたまま、別の業務を入れてしまいかねないからです。通訳というのはサービス業であり、信頼がすべてです。「後から来た仕事を優先してしまい、前者に迷惑をかけてしまった」とならないよう、スケジュール管理は必須です。
7.準備の所要時間も記録する
通訳の仕事では、「毎年・毎四半期・隔年」のように同じ案件を打診されることがあります。私の場合、通訳とは他に原稿執筆や大学での授業もあります。このため、手帳にはこうした「定期業務」の準備所要時間も記録しています。ポイントは、初めてそれを請け負ったとき、何に何時間かかったかを書いておくことです。「資料読み込み30分」「ネットで動画サーチ・視聴2時間」など、一通り記録します。次回同じ業務が来たときにはその記録を参考にして、今度は前回よりも7割ぐらいの時間で仕上げるべく、集中力と効率化を図っています。
8. 目標を書き出す
日々の仕事をする上で励みとなるのが「目標」です。私は年間・月間・週間の目標を設定し、手帳に書き込んでいます。頭の中で描くだけではなく、実際に自分の手で活字を書き出すことにより、その目標を強烈に意識できます。年間目標は手帳の巻頭ページ、月間はカレンダーページ、毎週の目標は週間バーチカルページにそれぞれ記入し、毎朝起床時に必ず目に入れるようにしています。何か特定のことを習慣化したい場合、こうして「記入→確認→実行」を繰り返すと自然と身につけられます。
9. 手帳は常に卓上に開いておく
情報の散逸を防ぐため、私は思いついたこともすべて手帳に書いています。そのため、自宅で作業する際には机の右側に手帳を開いた状態にしておきます。これは私が右利きであり、書きやすくするためです。明日できることは明日の欄に、読みたい本や行きたい場所は巻末の余白ページへという具合に、「とにかく即書き込むこと」をモットーにしています。
10. ファッション記録・出納記録も手帳で
フリーで通訳をしているため、着用した服も記録しています。これは同じクライアントさんとの仕事で前回と同一ファッションを避けるためです。日付の横に「白・黒・赤(白ジャケット、黒シャツ、赤スカート)」という具合に配色だけ書き込んでいます。また、レシートが出なかったときには現金でのやり取りもメモしておきます。
以上、今回は手帳術に関するヒントをお伝えしました。皆さんもぜひ色々と試しながら、お気に入りの一冊を見つけてみてくださいね。
柴原早苗(しばはら さなえ)
放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳業に従事。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。