【第5回】柴原早苗の通訳ライフハックス!「新幹線出張術」
通訳業に限らず、移動が多いビジネスパーソンも読者の中にはおられることでしょう。そこで今回は新幹線での移動をメインに出張術についてご紹介します。東海道新幹線をメイン拠点に書いております。あらかじめあしからず・・・。
1. 指定席券は買っておく
以前、新神戸まで日帰りで出かけたときのこと。早朝の新幹線に東京駅で乗車しました。数分おきに東海道新幹線は出ています。自由席でも大丈夫と思い、指定席は買っていませんでした。ホームを歩きながら自由席車両を目指した際、指定席やグリーンの車両がガラ空きなのも確認しました。「いざ自由席がいっぱいなら車内清算で指定へ移ろう」と思ったのですね。ところがその日は3連休の初日!自由席は人だらけで、結局運よく座れたのは京都駅でした。2時間18分の立ち通しでしたね。
その後、何度か東海道新幹線に乗車しているのですが、最近の東海道新幹線は通勤電車のごとく人が多いような気がします。ギリギリの乗車でも安心して座りたいというのであれば、やはり指定席の事前購入が一番です。
2.先方へのお土産はあらかじめ買っておく
最近はエキナカが充実しており、様々なお土産が駅で買えます。ただ、早朝の東京駅に限って言いますと、やはり人が多く落ち着いて買うにも体力が要ります。以前の私は「東京駅まで手ぶらで家から出かけて、そこでかさばるお土産を買う方がベター」と思っていました。けれども慌ただしい雰囲気の中で買うのは意外と大変です。そこで最近はあらかじめ地元で名産品を買い、自宅から持って出かけるようにしています。確かに自宅から持参するとそれだけで荷物になることも否定できないのですが、地元ならではの珍しいお土産を贈ると、それだけで先方と話も弾みます。
3. 早朝のカフェラテはガマン
実はカフェラテが好きで、新幹線に持ち込んで車内でゆっくり飲みたいと思う派です。けれども朝6時過ぎの東京駅・新幹線改札構内でカフェラテを売っているお店はないようで、一番早くても某カフェチェーンの6時半開店まで待たねばなりません。つまり早朝の新幹線の場合、改札外で買って持ち込まない限り、カフェラテはお預けとなるようです。ちなみにこのカフェは人気店ですので、いつも新幹線の乗客が列を作って購入を待っています。時間の余裕があれば買えますが、ひっ迫しているとなかなか厳しいかもしれません。
4. お手洗いのこと
最近の駅のお手洗いはどんどん進化しています。おむつ替え台やメイクエリアなど、スペースも広く、使い勝手も良くなっています。ただ、特に冬場になるとどのお手洗いも混雑しがちです。発車時刻を気にしながらギリギリで駅構内のお手洗いを利用するより、いっそのこと車内のお手洗いを使う方が安心です。
5.車内でやることを決めてから乗車する
新幹線の場合、座席前にはテーブルがありますので、資料を広げたりメールの送受信をしたり仕事をしたりできますよね。まとまった時間、何かに妨げられずに集中できるのも新幹線移動のメリットです。私は新聞や雑誌、郵便物など「紙書類」を持ち込んで車内で読み倒すようにしています。自宅ではつい後回しになってしまうため、積読になった紙媒体を一気に車内で読み、出先のごみ箱に捨てさせていただくのです。こうしてあらかじめ車内でやりたいことを決めて準備をすると、「集中空間」も有効に使えると思います。
6. 本格的に眠るならネックピローとマスクがお勧め
「車内で仕事はせず、ひたすら体力回復に充てたい」という場合、ネックピローとマスクがあると便利です。頭の重さは体重の1割と言われていますので、首を前に曲げて寝ればそれだけでも首自体に大きな負担がかかります。本格的に眠るのであれば、きちんとネックピローで支えると疲労感も違ってきます。また、喉を守るためのマスクも乾燥した車内ではお勧めです。暗いのがお好みの方はアイマスクを、音をシャットアウトするならイヤホンも(ただし降車時間には注意、ですよね)。
7 . 帰りのお土産は到着後すぐに
目的地に到着直後、もし時間に余裕があるのであれば、あらかじめ帰りに買うお土産の購入をお勧めします。下記の8にもある通り、夕方の新幹線駅構内は混雑するため、せわしなくなってしまうのです。ちなみに私は「ビジネスバッグが膨らまないお土産」を一つの選定基準にしています。薄型の箱状のものであればバッグ内でもつぶれずに済みます。「個別包装でたくさん入っている」「夏場であれば溶けないお土産」など、状況や季節に応じて自分なりに買うお土産を選んでいます。
なお、持ち歩くのが大変であれば、「到着→お土産購入→駅のコインロッカーに入れる」を一気に済ませると身軽になります。もちろん、帰り道にコインロッカーのものを回収することをお忘れなきよう…。
8.ホーム売店は穴場
先日大阪へ出張した際、帰りに新幹線駅構内でお土産を買うべく、売店へ立ち寄りました。改札内には複数のショップがあり、スイーツやお総菜、お弁当など様々なものが並んでいます。けれども折しも夕方とあり、ショップ内は大混雑。しかも皆さん(私を含め)大荷物を持っているため、店内の移動にもカバンが当たらないようにと気を遣いました。いざお目当てのお菓子を手にするも、レジ前には大行列が。出発時刻が迫っていたこともあり、あきらめてホームへ上がりました。
ところがホームの売店前は人もさほどおらず、種類は少ないものの地元のお土産が並んでいたのです。落ち着いて買えて一安心でした。そういう意味でもホーム売店は厳選されたお土産の並ぶ「セレクトショップ」です。ちなみに私は出先での帰路、地元の新聞も買うようにしています。首都圏の新聞とは異なる地元紙は大いに楽しめます。
9. 帰路は頭を休ませる
出張からの帰りの道中というのも、色々な時間の使い方ができますよね。出張報告を一気に書き上げるもよし、読書をしたりスマートフォンで情報を集めたりということもできるでしょう。睡眠もとることも大切です。私の場合、「寝るほどでもなく、かと言って仕事をするほど頭がさえていない」という時は、あえて「考えずに済む作業」をしています。画面を見ると目が疲れてしまうため、デジタル機器は使いません。通訳という仕事柄、電子辞書を持ち歩いているため、電子辞書だけはOKにして、辞書で「遊ぶこと」をメインに過ごします。
最近凝っているのは、車内の電光掲示板に出てくる「途中通過駅」の駅名を電子辞書で調べることです。電子辞書には語学辞書だけでなく百科事典も搭載されています。たとえば滋賀県の米原を通過した際、電子辞書で「米原」と入力すると、国語辞典や百科事典など複数の辞書の見出し語がヒットします。それらを一つ一つ読んでみるのです。広辞苑の場合、わずか数行ですが米原の位置、歴史や人口などが書かれており、コンパクトに知ることができます。一方、ニッポニカなどの百科事典は本格的な記述です。こうして知識の引き出しを増やすことも通訳者には必要と言い聞かせつつ楽しんでいます。ちなみに先日のこと。電光掲示板で某企業のCMが流れ、その社名には「ベークライト」の文字がありました。早速引いてみると、ベークライトというのは英語でbakeliteと綴り、しかも商標名でした。元はベルギー系アメリカ人L.H. Baekeland(ベークランド)から来たのだそうです。
10. 地図と時刻表と窓の景色
出張からの帰路、まだ明るいうちであれば外の景色を改めて味わうこともお勧めです。普段自分が見慣れている日常の光景とは異なる景色が車窓から楽しめます。首都圏とは違った屋根や建物の形、畑に設置されている大型広告、山の形状など、改めて見てみると真新しい光景にホッとできます。
ちなみに東京・永田町の都道府県会館には一都46県の事務所がそれぞれあり、そこで紙版の地図を無料でいただくことができます。私は新幹線が通過する東京、神奈川、静岡、愛知、岐阜、滋賀、京都、大阪などの県地図を携えて新幹線に乗るのが好きで、カバンに余裕がある時はそのようにしています。出張からの帰路、まだ窓の外が明るければ車窓の光景を見つつ、今地図のどのあたりを走っているのか眺めて楽しんでいます。私のお気に入りは東海道新幹線上りの海側の座席です。静岡駅を過ぎてからしばらくすると、なんと右手に富士山が見えてきます。「右富士」と言うそうです。新幹線が東西では南北になるからなのですね。
「紙モノ」でもう一つ。私は「みどりの窓口」カウンターに置いてある無料の紙版冊子時刻表も好きで、よくいただいています。車窓から通過駅を見つつ、時刻表と比べてみると、今、その駅で何号の新幹線が通過待ちをしているのかわかります。
いかがでしたか?今回は東京・関西間の東海道新幹線に話を絞ってのご紹介となりました。出張という非日常の時間と空間を味わうべく、ここでご紹介した項目が少しでも参考になれば幸いです。
柴原早苗(しばはら さなえ)
放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳業に従事。NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。