【第8回】柴原早苗の通訳ライフハックス!「時間泥棒撃退法」

この仕事をしていると「時間」にはどうしてもシビアになります。現場に遅れないよう、私など心配で1時間前には到着してしまいますし、同通時に数秒でも間が空いてしまうと自分の通訳力不足を痛感して焦ります。大量の書類がドサッと宅配で届き、「ああ、読まなくては」と思いつつも、なぜか掃除・洗濯・カーテン洗い・窓の桟拭きなど、どう考えてもプライオリティが低いことに関心が向かい、「ああ、また時間不足に」と嘆くこともしばしです。そこで今回は、「時間泥棒撃退法」と題してお送りします。時間を無駄にしてしまうケースは色々とありますが、本稿では私が個人的に思い入れのある項目を中心にお伝えしましょう。

1.悩む時間による時間ロス

日々の生活を送っていると、あらゆる場面で人は悩むものです。買い物の食材選びといった小さなことから、仕事や交友関係のことなどに至るまで、「人は悩める生き物」ゆえに心が乱れてしまいます。私の場合、何か悩みが浮上した際、「自分で対処できるか?」とまずは自問自答します。自分が何かしら行動することで少しでも改善できるなら動くべきでしょう。一方、自分ではどうにもならないことであれば、長々と悩んだところでどうにもなりません。そこを割り切る訓練と称して「自分で対処できるか否か」を考えるようにしています。

2.嫌なことに直面した時の時間ロス

たとえば今の仕事が辛くて転職しようかどうしようか悩んでいたとしましょう。私はこのような境遇に置かれると、次の三つの選択肢を用意します:
(1)耐える:確かに苦しいけれど、我慢すれば突破口が見いだせるかも。
(2)建設的意見を言う:自分に苦しみをもたらす相手(上司、同僚などなど)に対して、自分の本心を誠意をもって伝える。言い方には細心の注意を払い、双方が状況を改善させられるような展開を考えて意見を述べる。もちろん、成功するとは限らない。余計泥沼化するかもしれないが、何もしないで悶々とするより、一歩を踏み出せたなら大いなる快挙。
(3)離れる:どう考えても改善の余地なく耐えられないのであれば、逃げるのも手。明治大学・齋藤孝教授も「こども孫子の兵法」(日本図書センター、2016年)の中で「意味のある逃げもある」と書いておられます。

3.悩み時間をノートに書き出す「生産時間」とする

頭の中であーだこーだ悩んでいても脈絡がなくなり、堂々巡りになります。私は悩みごとが生じると、まずはノートに書き出します。最近はSNSなどで吐露するケースもあるようですが、私は「他人には決して見せないノート」を用意し、そこにありとあらゆることを書き殴ります。ストレスも、改善案も、思いつくまますべてです。ここ数週間、マイルールにしているのは「せっかくなので英語で書く」ということです。日本語の方が楽ではありますが、その一方で英語でかな~~~りキツイことを書き殴ります。もちろん、将来自分の遺言状には「ノートは即捨て」を厳命するつもりです。何にせよ、吐き出すだけでスッキリしてきます。

4.第三の場所を作っておく

悩みがちだなと思ったら、なるべく深刻化する前に自分の行きたい場所へ足を運ぶようにしています。私にとってのお気に入りは行きつけのカフェや近くの公園です。とりわけ公園は緑が多く、早朝に行くとシニアの方々がウォーキングをしており、その姿に励まされます。お散歩わんちゃんに「遊んでもらう」だけでも癒されます。また、ジムも定期的に行っており、たとえ仕事や家で不本意なことがあってもジムで汗を流すとすっきりします。自分にとっての貴重な居場所です。一人ドライブ、お一人様コンサートや美術館巡りなども気に入っており、正々堂々と「お一人様ライフ」を享受するようにしています。

5.その集まりは本当に自分が行きたいのか?

たとえば飲み会や同窓会など、本当に本当に自分がそれに参加したいのか、最近の私は自問自答するようになりました。もちろん、友達や懐かしい級友と時を過ごすのは貴いことです。けれども、他にやりたいことがあるのを犠牲にしてまで行きたいのかをあえて自分に尋ねてみるのです。私の場合、アルコールがダメ、深夜帰宅時のラッシュがイヤ、騒々しい居酒屋も苦手、大勢と話すより少人数の方が好きなど、自分なりの好みがあります。昔は「周りに合わせねば」と思っていましたが、年齢を重ねるにつれて、自分に正直になることに重きを置いています。

6.人と比べない

かつて私はFacebookのヘビーユーザーでした。ところがのめり込み過ぎてしまい、仕事や読書に支障が出始めたのです。そこできっぱりとやめました。もちろん、情報源や仕事の連絡ツールとして重宝されているのはわかります。けれども、こと私に関しては自分の人生においてそれほど重視しなくてもよいとの結論に至ったのです。私の場合、周囲のいわゆる「リア充」にものすごく左右され、焦るというのが大きかったですね。心がかき乱されるのであれば、出来る限り近づかない。これを信条としています。

以上、今回の「ライフハックス」では、時間泥棒への対処法について経験談をお話いたしました。少しでも参考にしていただければ幸いです。大事なのは「自分が生きるのは自分。他人が自分の中に生きるのではない」ということでしょうか。


柴原早苗(しばはら さなえ)

放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳業に従事。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。