【第7回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編「イースター後はあっという間」

皆さん、こんにちは。

日本は今年は10連休のゴールデンウィークを楽しまれた方も多くいらっしゃるのではないかと思いますが、ロンドンでは4月にイースター休暇があり、大学も2週間のイースター休暇がありました。

では、前回の記事以降各モジュールで学んだこと等をご紹介したいと思います。

■EU/UN

2週間ごとに4回の模擬会議が開かれました。前半の2回がEUの会議、後半の2回が国連の会議を模したものです。会議のテーマは学生によってEUの2回が「EUの未来-今後20年のビジョン」「移民:ダブリン規則の代替は見つかるか」、UNの2回は「女性の権利:更なるジェンダー平等を目指して」「きれいな水へのアクセスはどう子供たちの未来を変えるか?」に決まりました。

通訳の方向はB言語の英語からA言語の日本語のみですし、基本的には1学期に会議通訳2の授業であった模擬会議と同じように準備をして臨みます。ただ、EUや国連の会議独特の言い回し等でその組織の構造や仕組みを知っていないと適切な訳出ができない場面もたくさんあるので、そういった知識も積極的に仕入れるようにします。また、模擬会議のスピーカーは実際にEUや国連の会議でスピーカーとなるような、政治家や専門家になり切って話すために、そういった実在の人物についても知っておくことが大切です。

4回の模擬会議に合わせて、4回の言語別チュートリアルもあります。チューターの先生と、同じ言語の組み合わせの学生で行われ、各模擬会議のテーマに合わせて知識の確認をしたり、似たテーマのスピーチを用いて通訳演習をしたりします。この時間に疑問に思っていたことが解決したり、勘違いしていたことに気づいたりといったことも多くあります。

それでも、通訳をする上で自分が一番大きな課題だと感じていることが、背景知識の足りなさです。4回の模擬会議を通じて毎回感じていたのが、なんとなくそれっぽく訳すことはあっても、なんだかイマイチ分からないということが多々ありました。スピーカーや話の中に出てくる人物がどういう立場でどういう考えを持っている人なのか、どういう流れで今の状況があるのか等が分からないと適切な訳出ができない場面に多く直面し、背景知識の理解の重要性を痛感しています。

■会議通訳2

このモジュールでもEU/UN同様2週間ごとに4回の模擬会議が開かれました。模擬会議が行われる週はEU/UNと同じ週、しかもEU/UNの翌日なので、2日連続で模擬会議に備えなければならないので、模擬会議のある週はその前の準備が忙しいです。4回の会議のテーマは「イギリスとヨーロッパの未来」「欧州労使協議会」「ICTとソーシャルメディア」「ビジネス(ショッピング・購買行動の変遷)」で、こちらはあらかじめ大学側で決められています。

また、同様に言語別のチュートリアルセッションがあります。英→日、日→英でそれぞれ4回ずつ設定されていますが、どうしても今学期から始まった日→英の方が苦手意識もあるということで重点的に行うことが多いです。会議通訳2のチュートリアルセッションも、テーマごとに頻出の単語を用いて作文をするといったトレーニングや、サイトトランスレーション等の基礎訓練から、関連するトピックのスピーチを用いた通訳訓練と内容は盛りだくさんです。

このモジュールではA言語からB言語への通訳があるために、模擬会議もリレー通訳が多くなります。そこで自分の課題の一つが、リレー通訳で自分が聞く英語によって、自分のパフォーマンスに差が出てしまうことです。学生同士のリレー通訳では、英語への通訳を聞いて「内容が明らかにおかしいのではないか?」と思うことや、文章が完結していなくて次に進んでしまって理解できずどのように日本語に訳したらいいだろう?と迷うこともありますが、自分も日本語から英語に訳してそれを他の学生がリレー通訳をすることもあるので、他の学生のパフォーマンスを聞きながら自分もどういったところに特に注意したらいいかということを考えさせられます。

■TIPE

通訳者を取り巻く労働環境について学ぶこのモジュールでは、学期の中盤に入り、実際に仕事での通訳経験のある学生のCVを回し読みしてどういうところが良いか、どういったところが改善できるかなどグループディスカッションをしたり、LinkedInのようなソーシャルメディアの活用についてプレゼンテーションを聞いたりしました。また、通訳者の行動規範であるCode of Conductについても学びました。そして、これまでこの会議通訳のコース全体で、前期に2回グループプレゼンテーションがありましたが、後期にも1回グループプレゼンテーションがあり、それがCode of Conductについて1つテーマを決めてリサーチを行うというものなのです。このモジュールは上記の2つのモジュールと異なり、通訳のテストはなく、このグループプレゼンテーションと実際に自分が通訳を現場で行ったりプロの通訳者の現場での通訳を見学したりといった機会を学期中に持ち、それに関するエッセイでの評価となります。

■Dissertation

コース修了に際し、修士論文もあります。修士論文を書かなくてもコースを修めることはできるのですが、MAのディプロマを取得するためには修士論文の提出が必要です。不定期にリサーチの始め方やアカデミックライティングに関するワークショップが開催され、同時にこれまで1学期のグループプレゼンテーションで自分が調べたテーマやエッセイで取り上げたテーマを振り返ったり自分の興味のある分野について今一度考えたりしながらまずはプロポーザルを提出しました。修士論文には基本的に大きく分けてOriginalと言って通訳に関する特定のリサーチクエスチョンに対し、一定数の通訳者を対象にアンケート調査や実際に通訳をしてもらう等の実験を通じてその分野の研究に貢献できるような成果を出すことを目的としたものと、Reflectiveと言って自分が通訳訓練を行う中で課題であると感じていることをもとにリサーチクエスチョンを設定し、その課題を解決するための取組みを行って自分のパフォーマンスの分析を行うという2つのオプションがあります。それぞれのオプションについて、ワークショップを通じて、また通訳訓練に関する推薦図書を読んで勉強し、自分がどちらのアプローチをとるかを決めます。そしてイースター休暇後に修士論文のSupervisorが割り当てられ、より本格的に取り組んでいくという具合です。

さて、あっという間に後期の授業もほとんど終わりへと近づき、つい最近前期の期末試験が終わったばかりであるような気がしていたのに、もう後期の期末試験が近づいてきました。次回は後期の期末試験について取り上げたいと考えています。

(CPDと呼ばれる継続教育のためのイベントも多く開催され、在学生だけでなく卒業生や外部の通訳者などが集まる貴重な場となります。)


溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。