【第8回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編「とうとう後期の期末試験」

皆さん、こんにちは。

日本ではもう暑い日が続いているというニュースも耳にします。ロンドンでは寒すぎず、暑くもなく、緑も生い茂ってとても気持ちいい季節になりました。街もきれいで比較的天気も良く、外に出かけたい気分ではありますが、早くも試験シーズンがやってきました。後期のモジュール「EU/UN」「会議通訳2」「TIPE」の中には、いわゆる「試験」があるものと、ないもの(試験以外で評価されるもの)があります。

■試験のないモジュール

唯一、TIPEが試験のないモジュールです。

評価は、①Placementと言って実際の通訳の現場で通訳を自分がしたりプロの通訳者が仕事をする様子を見学したりして1件あたり1000ワードのレポート、②Code of Conduct(通訳者の行動規範)に関するグループプレゼンテーションで行われます。レポートの最終締め切りはDissertationと同じ9月なのですが、先にグループプレゼンテーションがありました。グループプレゼンテーションの日程は、本来5月中旬に設定されていましたが、他のモジュールの試験前に負担になるなどの声が上がり、今年は本来の日程の他に試験後の6月中旬の日程も選択できることになりました。しかし、私のグループは私自身5月の日程を希望していたこと、また他のメンバーも6月以降は海外でインターンや仕事の予定があったりしたため5月に受けることにしました。普段から仕事をしながら勉強しているメンバーが多かったこともあり、なかなかグループで集まって打ち合わせなどをするための時間を割くことが難しかったのですが、その分、「一人一人が自分の役割をきちんと果たそう」という意識がこれまでのグループプレゼンテーション以上に高く、非常に限られた時間で効率よくそれぞれが準備することができたと思います。

Code of Conductは世界でも各通訳団体、各国等で規定されていますが概ね主旨は共通しており、Confidentiality(機密性)、Integrity(完全性)、Professionalism(プロフェッショナリズム)などの項目があることが多いのですが、私たちのグループはCollegiality(同僚性、同僚との協力性)について、中でも特に同時通訳の時のブースでの行動について発表することにしました。AIIC等によるCollegialityの定義や起源、文献調査に加えて、ブースでの同時通訳経験のあるプロの通訳者の方を対象にしたアンケートやインタビューも合わせて今後自分たちがブースで通訳する際にどのような行動をすべきかという結論をまとめたプレゼンテーションになりました。調査の仕方や発表の仕方など、課題も残ったグループプレゼンテーションで、日程もなかなか厳しいものがありましたが、試験前に一つやらなければいけないことが終わったのはホッとしました。

■試験のあるモジュール

1.EU/UN

EU/UNモジュールの試験は、逐次通訳と同時通訳と両方行われ、通訳の方向はB言語(英語)からA言語(日本語)のみです。4回の模擬会議で行われた「EUの未来-今後20年のビジョン(EU)」「移民:ダブリン規則の代替は見つかるか(EU)」「女性の権利:更なるジェンダー平等を目指して(国連)」「きれいな水へのアクセスはどう子供たちの未来を変えるか?(国連)」のテーマの中から、1つまたは複数の組み合わせで出題されます。ですのでこれらのテーマについて精通することは試験対策として重要なことの1つです。試験の1週間前に行われた後期の振り返りの授業や、毎週行われていた演習の時間では、EUや国連のウェブサイトで公開されている実際の会議のスピーチを用いたり、またスピーチが多数掲載されているウェブサイトから似たテーマのスピーチを見つけて逐次、同通ともに演習をすることが多くありました。そして、このモジュールでの通訳で重要なのは「EUや国連のみで使われる又は頻出する用語・言い回しに慣れておく」ということです。それぞれの組織の仕組みを理解したり主要人物についての知識も重要です。このモジュールのおかげで、例えほとんど理解できない言語のニュースのテレビ放送を聞いていても、EUの主要人物の名前だけは耳に飛び込んできて反応するくらいにはなりました。

試験は午前に逐次、午後に同通が行われました。午前と午後の間の待ち時間も多いので、「午前に出なかったテーマが午後に出そうかな」と山をかけて準備するなど、その過ごし方も重要です。しかし私は結局疲れと眠気に勝てず、割とゆっくりと休憩して午後の試験を受けました。

2.会議通訳2

このモジュールの試験は同時通訳のみですが、B言語(英語)からA言語(日本語)だけでなく、A言語(日本語)からB言語(英語)もあります。こちらも4回の模擬会議の4つのテーマ「イギリスとヨーロッパの未来」「欧州労使協議会」「ICTとソーシャルメディア」「ビジネス(ショッピング・購買行動の変遷)」の中から1つまたは複数の組み合わせで出題されるということでした。このモジュールはEU/UNに比べると一般的な話題であり、一般的な会議の様式です。とは言うものの、ある程度会議によく出るフレーズなどには慣れておいてスムーズに訳出できるようにしておく必要があります。

こちらの試験は午前に日→英、午後に英→日が行われました。

さて、この「EU/UN」「会議通訳2」の試験に向けてどのような準備をしたかということを少しお話します。

前期の期末試験の時は、最後の授業から試験まで10日ほどあり、しかもその間試験勉強以外にやるべきことも特にほとんどなかったので、特に逐次通訳は毎日、学生用のサイトに掲載されている過去7、8年分の過去問を用いて試験と同じ形式で演習を行い、録音したものを自分で聞いて「自分のパフォーマンス振り返り用」のノートに気づいたことを書いていました。また、直前に時事問題のチェックも行っていました。

それに比べると、今回は試験勉強らしい試験勉強は随分少なかったように思います。まず、EU/UNに関しては、模擬会議のテーマは毎年学生が決定するので、過去の問題を見ても扱っているトピックは異なっており、通訳の練習にはなりますが直結するわけではありません。また、会議通訳2に関しては大学側で決定されるトピックではあるものの、今年は昨年までのトピックから変更もあったようでした。授業の演習の中で過去の試験問題を使ったことはありましたが、結局それ以外に自分で学習するときに今回は過去問を使うことは一切しませんでした。また、EU/UNに関して、授業でたまに使ったような実際の本会議のスピーチなどを使って対策をするということも一切しませんでした。その理由としては、実際の本会議のスピーチでは各国の指導者たちはやはりさまざまなアクセントで話していることもありますし、また内容も実際に話し合われている現実に起こっている問題には模擬会議のスピーチよりも複雑なものも多くあります。一方、試験のスピーチはEUや国連を想定して作られるものの、スピーカーは普段聞き慣れている先生です。ですので、聞き取りが難しいアクセントで話されているスピーチで通訳練習をして思ったようにできないことに落ち込んだりストレスを感じたりするのだったら、今回の試験対策としては実際のスピーチを使った練習は自分には要らないと判断しました。

結局私がしたことは大きく分けて2つ、Glossaryの復習とチュートリアルの復習です。Glossaryは各模擬会議の前に毎回トピックに関連した一般的な用語とスピーカーから事前に知らされているキーワードなどについて作っているので、同じトピックのスピーチが出るのだったら少なからず役に立ちます。逆に言うと、一度作ったGlossaryくらいはすぐに使える状態にしておく必要があります。また、言語別に行われたチュートリアルでは、少人数の日本語チームのみで細かいところまで教えていただいたり、苦手な部分を重点的に習ったりしており、また練習用のスピーチ(特に日本語)も紹介していただいているので試験のイメージもしやすく、何が求められているかもつかみやすいのです。また、チュートリアルの授業自体が、背景知識の習得やメモリーエクササイズなどをはじめとする基礎訓練から逐次、同通まで非常に練られて必要なことがバランスよくまとまって構成されているので、とても効率よく必要なことを学べます。

当初は早めの時期からGlossaryはなるべく何度も目を通して、またチュートリアルの復習も余裕をもって行い、チュートリアルで演習したスピーチや紹介していただいていたスピーチを何度も繰り返し練習する予定でした。しかし現実は、Glossaryを見ていると、声を出そうが歩こうが十分に睡眠をとろうがなぜかどうしても眠くなってしまい、結局試験準備をした5日間のうち3日ほどGlossaryばかり、2日をチュートリアルの復習に割いていたような気がします。過去問やEUや国連の実際のスピーチを一切使わないという自分の方法に100%自信があったわけでもないので、、自分でも前期よりも勉強量が激減しているような焦りもありました。しかし今冷静に振り返ってみると、前期の試験前も3日前まで同時通訳が手つかずだったり2日前まで時事問題を放置していたりしたので、自分のやり方としては実はあまり変わっていないのかもしれません。

各試験前にはキーワードや状況説明を与えられて10分間、Glossaryや辞書、インターネット、用意した資料などを用いた準備時間があります。キーワードの訳語を調べるだけではなく、どのような話題が出そうかブレインストーミングをしたり、最近のニュースに少し目を通したり、結局その10分間の使い方が試験の出来を左右すると言っても過言ではありません。ですので、最終的には「直前10分から頑張ろう」と決めてほとんど緊張することもなく試験に臨み、また自分で練習しているときには味わえないこの準備時間10分と本番との緊張感が、スポーツに似ているようで実は割と好きなので、出来はともかく試験本番は試験勉強よりもずっと楽しかったです。

結果はまだわかりませんが、こうして試験は終わりました。
試験が終わるとすぐにDissertationに取り掛かります。また、会議通訳修士コースには含まれませんが追加で履修している公共サービスの「PSI」の授業はまだ続いています。

次回以降は試験後に取り組んでいることについてお話したいと思います。

 

(ゲストスピーカーを招いて通訳者のCVについてグループワーク中の一コマ)


溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。