【第9回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編「試験後の取り組み」

みなさん、こんにちは。前回は5月下旬に行われた期末試験のことを書きました。期末試験が終わるとモジュールの授業は実質終了です。

私は会議通訳修士コースの必修のモジュールとして自分が選択した「EU/UN」のモジュールではないほうである公共通訳のモジュールを追加していました。第6回の奮闘記でご紹介したように、警察や法廷などの公共サービス通訳「PSI」のためのモジュールで、Chartered Institute of Linguists(CIOL)という団体が主催している認定試験を受けて、合格してDiploma in Public Service Interpreting (DPSI)という資格を得て初めて公共サービス通訳ができるようになります。その試験が6月と11月の年2回主に行われるということで、6月はDPSIのための勉強をしました。

DPSIの資格を得るためには、Unit1~5のすべてのUnitに合格する必要があります。
Unit1が対話形式での通訳、Unit2、3がそれぞれ日英・英日でのサイトトランスレーション、Unit4、5が日英・英日での翻訳です。

Unit1の対話形式での通訳は基本的に逐次通訳ですが、一部ウィスパリングをする部分があります。そして、ウィスパリングを日英でするシナリオと、英日でするシナリオの2種類のシナリオの試験を受けることになります。場面としては、公共通訳をする場面で実際に起こりそうなもので、例えば、拘置所での被疑者と警察官の会話であったり、被疑者と事務弁護士の会話、難民申請希望者と拘留センター職員の会話であったりします。通訳する時間も含めて各30分程度です。試験日の4週間前を目途に、簡単な場面説明が公表されるので、どんな内容が出題されそうかということを想像しながら準備をします。

Unit2、3はサイトトランスレーションです。Unit2は日英で、英語に訳した時に180語前後になることが求められるような分量の文章をサイトラします。辞書や用語集の持ち込みや、試験の問題用紙への書き込み等はできませんが、5分間準備時間が与えられるので、一通り目を通したりなんて訳そうか考えたりして、時間が来て訳すよう促されたら訳します。訳を始めてから終えるまでも5分以内でおさめなければいけません。内容は、移民や警察、民法や裁判などの分野での法律や規則について簡単に紹介するような文章だったり、事件の目撃者の証言のような文章だったりする傾向にあります。そしてその英日バージョンがUnit3で、形式はほぼ同じで、原文が180語前後の英語の文章をサイトラします。

Unit4、5は翻訳です。Unit4では英語で250語程度になるくらいの日本語の文章を英語に訳します。試験時間は60分で、紙の辞書や用語集など紙媒体のものが持ち込めます。そして、試験自体も手書きです。Unit5では英語から日本語に訳します。内容は、サイトトランスレーションとほぼ同じようなシチュエーションの文章が多いです。いずれも手書きの試験で、ペンで書くことと決まっています。こすって消せるペンで書くといいというアドバイスもあったのですが、日本のビジネス界等で正式文書などにこすって消せるペンは有効と見なされないことも多いので、不安に思った私はそこで変な賭けには出ずに普通のボールペンで書きました。また、最近はパソコンやタブレット、スマートフォン等で文章を書くことも多く、手書きでものを書くことが少なくなっていたり、英語も日本語も予測変換にはずいぶん知らず知らずのうちに頼っているため、単語のスペルや漢字はぱっと出てこなかったらどうしようと思ったり、本当にこれで正しかったっけ?と不安になったりすることもありますが、そういう時に辞書を持ち込めるのは安心でした。実際、試験の時に少しでも不安な単語を全部引いている暇などもちろんないですし、練習でしているよりも本番は慎重に取り組んだり字を丁寧に書いたりするせいか時間もなくなる傾向にあるので、見直しの時にスペルや漢字の確認のために辞書を使うという使い方がほとんどだったように思います。

さて、私は5月までは通常の会議通訳コースの授業や試験のことばかりしていたり、6月上旬は他にもやることがあったりしたため、実際に試験準備は直前1週間くらいでしました。先輩からも、通訳、ウィスパリングは普段学校でやっているから通訳自体は大丈夫だと思うから用語に慣れておくのが重要であると言われていたので、用語集を頭に入れて使えるようにすることに比重を置きました。また、翻訳、それも日本語への翻訳が一番油断してはいけなく落としやすいとも聞いていましたので、授業で扱った教材も、ジェネリックの授業(言語別ではない)で扱った翻訳教材については一通り取り組み、言語別のチュートリアルについては、DPSIの試験と類似したトピックにの教材については取り組みました。

公共サービス通訳のモジュールをとると決めた時から、私は周りの多くの人とは違って、DPSIの資格を得ることというよりも、授業の中でロールプレイなどを通じて会議通訳のコースでは扱っていなかった日英の逐次を練習することや、ただ単にせっかくイギリスにいてもう今やらなかったら人生でイギリスの公共サービス通訳の勉強をしようと思うこともないだろうといった軽い気持ちでいたので、実は学校の授業が終わった時点で自分の目的はある程度達成してしまっていて、自分の中ではDPSIの試験は「おまけ」のようなものでした。もちろん結果として試験に合格できたら合格しないよりはいいだろうし、いつか何かで役立つかもしれないけれど、特に結果を追求するような勉強の仕方はしませんでした。

実際の試験は、Unit1~3が同じ日に行われ、それから1週間ほど後にUnit4、5が違う会場で行われました。当日は行ったことのある場所であったし、試験開始2時間前に到着するように調べて家を出たのですが、公共交通機関のダイヤが大幅に乱れて、危うく遅刻しそうになりました。そして試験自体も日本の大部分の試験のようにきっちり時間通り始まるものでもなく、試験を行う部屋にも時間になっても違う人がいて、確認のためにしばらく外で待たされたり、試験が始まって録音を開始してから、ロールプレイの台本を読み上げる人が原稿を持っておらず、試験官のものを使うことになったり(特に受験者に影響はなく待っているだけですが)、予想外のことばかり起こるので、何よりも動じずに普通にこなすことが一番大事だと思います。

試験の結果が届くまでには2か月ほどかかるようです。
次回はDissertationについて書こうと思います(記事を書けるよう、Dissertationに取り組もうという自戒も込めて…)。

(DPSIの試験対策として、法律の知識を深めるために学校で進められた市販の教材)

溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。