【第3回】薬事の通訳ー医療機器を中心に「開発過程について」

医療機器はどのように作られるのでしょうか?医療機器は工業製品としての側面や、臨床現場のニーズをとらえ、なおかつ効果と安全性が検証されている必要があります。今回は、これらの壁を乗り越え、医療機器はどのように患者の手元に届くのかを考えます。

医療機器を開発するのは誰か

まず、医療機器は誰が開発するのでしょうか?例外はありますが下記の場合が多いようです。臨床現場や病気の実情・課題を知る医療関係者がアイディアを出すことがスタート地点になることが多いです。

 ・医師等が起業する(自分の悩みを解決したい)

 ・医療機器メーカー(医師との共同開発を行ったり、ベンチャー企業の買収により取り扱  い製品を増やす場合も多いです)

 ・他業界企業から参入(例:繊維系企業が人工組織を開発する、光学系企業が内視鏡を開  発する、等)

 ・大学等の研究機関系の企業(生物系・工学系・情報系)

2014年の薬機法改正を機に、ソフトウェア医療機器(SaMDと略されることもあります)という無体物(いわゆる「デバイス」でない)の医療機器の法的位置づけも整理されてきているため、ソフトウェア開発企業の参入も増加してきており、AIによる画像診断の補助・効率化や、認知行動療法により治療へのコンプライアンス(例:治療を継続させやすくするための通知を行う、等)向上等を使用目的とした製品が上市されてきています。この分野に対しては、厚生労働省に加え、産業振興の観点から経済産業省も注力しています。[a][b]

その他ステークホルダーについて

先の項では、アイディアを思いつく人・企業について述べましたが、アイディアだけでは医療機器は作れません。アイディアを形にするには様々なハードルがあり、一企業だけではまかなえない場合が多いため、医療現場等で製品を使えるようにするには様々なステークホルダーが関係します。

開発関係:

・開発企業(いわゆるメーカー)

・業界団体(開発企業のコミュニティ、情報交換や行政との交渉を行ったりする)

・投資家(開発企業を支援する)

・行政機関(厚労省、経産省、PMDAなど)

・医療機関

・介護施設

・患者会(希少疾病の患者さんたちのネットワーキングや行政・業界等へのはたらきかけを 行うコミュニティ)

規制・審査関係:

・厚生労働省

・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)

・第三者認証機関(PMDAより許可を受け、一定の範囲の医療機器の承認・認証業務を行 う企業[c], Third party certification body)

・製造販売業者(薬事承認取得者であり、医療機器の国内における製造・流通の監督を行  い、責任を負う企業, Marketing Authorization Holder)

・経済産業省(産業振興関係)

・総務省(電波法関係)

・都道府県・市町村(業許可関係)

患者に届くまでに何が行われるか

開発関係:

ざっと書くと一連の流れはこのようになります。

ニーズ/シーズ探索→開発(設計/非臨床試験/臨床試験)→薬事手続き→製造→(輸入)→販売

各工程の内容は今後触れるものもありますが、ここではニーズ(アイディア)やシーズ(技術)がどのように製品化されていくかについて着目します。

アイディアや技術から医療機器を作ろうとするときに検討する重要なポイントは、要求仕様決定フェーズと原理検証フェーズと呼ばれます。[d][e]

要求仕様決定フェーズ:要素技術の原理を検証し、開発する医療機器・システムのコンセプト及び性能を決定する段階(アイディアと技術をどう形にするか)

原理検証フェーズ: 医療現場等のニーズを満たしたプロトタイプ機を完成する段階(本当に現場で使いたいと思ってもらえるようにするにはどうしたらよいか)

規制・審査関係:

開発関係のうち、「薬事手続き(Regulatory procedure)」を分解してみましょう。一連の流れはこのようになります。

開発→前臨床試験→臨床試験→承認申請→承認→保険適用手続き→上市Development→ Pre-clinical tests → Clinical Study/Trial → Submission → Approval →Reimbursement Registration → Market Launch

開発以降の過程は今後触れていきますので、ここでは順番と用語の対応を示す程度にします。

ここまで書いてきたとおり、医療機器も他の工業製品と同じように、膨大な過程を経て実践までたどり着くことを説明してきました。当然、工程ごとの重要な点は異なり、必要な知識・考え方も違います。次回は医療機器開発を理解するうえで必要な思考回路、製品周辺知識の勉強方法について書く予定です。今回は以上です。ありがとうございました。

<参考文献>

[a] プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2(DASH for SaMD:DX(Digital Transformation) Action Strategies in Healthcare for SaMD(Software as a Medical Device)2)https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/SaMD/DASH_for_SaMD_2.pdf 

経済産業省 医療機器産業ビジョン研究会https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/medical_device/001.html

[b] プログラム医療機器入門 製品事例、薬事、保険、海外規制、業界団体の動向(薬事日報社)https://yakuji-shop.jp/SHOP/9784840816236.html

[c] https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0032.html

[d] https://www.amed.go.jp/content/000022342.pdf

[e] Biodesign: The Process of Innovating Medical Technologieshttps://amzn.asia/d/70hZ4EZ


大島千晶

大学卒業後に都内企業に就職後、医療機器薬事を担当。好奇心と探究心が満たされる楽しさから現在まで10年にわたり新医療機器を含むクラスⅠ〜Ⅳの幅広い薬事手続きに従事。 海外から日本市場に参入するMedTech企業の戦略立案・実行支援の業務に携わる過程で通訳・翻訳を担当したことを機に、通訳者としても働けるようになるべく勉強中。趣味は観劇と編み物。