【第18回】通訳なんでも質問箱「強すぎるアクセントについて」
「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。
Q.・英語が公用語の国(先進国ではない)
・しかし大勢が都市ではなく地方出身
・日本側の参加はごく少数
この条件での通訳の場合、①英語ではない現地語の単語が入って来くる事があり、何を言っているのか分からない時があるのと、②英語が公用語の国のため、自分の英語に現地語が入ってもその国内では普通に通じているので自分の英語がノーマルだと思っており、「なぜ通じないのか」となる時があり、とても手こずります。
大ベテランの先輩が「何言っているか分からない」と言うと、「そうだよね、仕方ないよね」となるが、新米の自分が同じところで躓いて同じことを言うと、「なんでわからないんだ。実力がないからだろう」になります。その様な場合、どの様に対応したらよいでしょうか。また、どぎついアクセント・文法めちゃくちゃな話者への対応方法も知りたいです。YouTubeを見て練習する以外に何かありますでしょうか?(タイガー)
岩瀬和美の回答
タイガーさん、ご質問ありがとうございます。
1. 参加者は普通だと思っている英語が、新参者の通訳者には普通に聞こえない。
2. ベテランなら許されても新米では許されない。
3. 標準と思っているアクセント、文法からかけ離れた英語への対応。
この3点について、お答えしてみますね。
- 英語に限らず、母語である日本語でも、理解が難しいことが多々あります。先日の会議では、日本人の非常に専門的な質問を、モデレーターの方がわかりやすい日本語に言い直してくださいました。ベテラン通訳者であっても、初めて対応するお客様の場合、状況は同じです。「御社のお仕事は初めてなので、不慣れな点があるかと思います。おかしな点があったらいつでもご指摘ください。」と謙虚な姿勢で先に牽制球を投げておけば、ご理解いただけるはずです。”会議を味方につける力”が重要です。笑顔は忘れずに!
- よくわかります。私も同じようなご指摘を受け、何度かトイレで涙したことが(笑)。振り返ってみると、当時の私に欠けていたのは、(繰り返しになりますが)”会議を味方につける力”だと思います。話の内容が分からなくて聞き返すのはベテラン通訳者も同じです。でも、そこに至るまでにベテランさんは会議を味方につけているのではないでしょうか?慣れないお客様で緊張から笑顔が消え、ミスを犯さないように鬼の形相で必死にメモを取る、プレッシャーから喉は詰まり、ぎこちない訳になってしまう、なんていう負のスパイラルに陥っていませんか?わからないところ以外は正確に訳すのはもちろんですが、ちょっとした気配りで会議の進行に貢献するなど、訳出以外のところでも信頼を勝ち取るチャンスがあります。小さなWINを重ねて、信頼を勝ち取っていきましょう!
- 先日のお客様は、過去形を使わず、”BEFORE+現在形”で過去を表現する方でした。最初は戸惑いましたが、通訳を続けながら彼の言語化や思考の”癖”を少しずつ分析し、わからない表現があっても、とにかく全体像を取るように集中し、乗り切りました。事前準備に加えて、多様な英語を受け入れる心、豊かな想像力も必要だと思います。
辛い時はJACIの仲間が支えてくれます。前進あるのみ。頑張ってください。
山本みどりの回答
タイガーさんの質問を拝見して、まず以下の部分が気になりました。
「何言っているか分からない」と言うと、「そうだよね、仕方ないよね」となるが、新米の自分が同じところで躓いて同じことを言うと、「なんでわからないんだ。実力がないからだろう」になります。
この太字部分は実際にどなたかから言われたコメントでしょうか?それともタイガーさんが頭の中で「周りの人はきっとこう思っているはず」と考えたことでしょうか?事実と自分の気持ちを区別するといいかもしれません。
新米のタイガーさんでも、大ベテランの先輩でも、濃淡はあると思いますが、癖の強いアクセントは多くの通訳者が苦手とするところ。筆者も、冷や汗をかきまくりながらスピーカーの話にかじりつくような気持ちで聞いても、聞き取れないこともあります。まずは自分に厳しくしすぎず、頑張っている自分を認めてあげましょう。
そのうえで、どぎついアクセント、文法めちゃくちゃな話者への対応方法については、二通りあると思います。
タイガーさんはYoutube検索のことに触れておられましたが、これは1.話者について検索、2.話者の出身地のアクセントについて検索、の二通りがあります。
1.話者をYoutube検索してみて、出てくればしめたもの。その人の発言を聞いて、メモを取り、徹底的にインプットします。業務の準備にもつながります。
2.その話者の出身国のしゃべり方をYoutubeで検索、研究しておくことも有効な対策ですね。
書籍からアプローチすることもできます。筆者は昔『インド英語のリスニング』(リンクは新装版)を買って、一通り読んでCDを聞きました。インド英語に関しては、他にも何冊も攻略本が出ているようです。また、Amazonで調べてみたところ、『「世界の英語」リスニング』 なんていう本も見つかりました。
ここからは若干大胆な提案です。
もし仮にタイガーさんがプロジェクトの通訳に入っておられるなど、継続的にその話者の通訳をする環境にいらっしゃるのであれば、その方とお茶をしたりランチに行ったりして、個人的に話をしてみてはいかがでしょうか。突拍子もないと思われるかもしれません。でも、親近感がわくとなんとなく聞き取れるような気がしてくるかもしれないし、「なんとなく聞き取れるかもしれない」という思い込みが実は本番での聞き取りに大きく影響してきます。もちろん、話者に直接「あなたの大切な話を正確に聞き取って訳したいので、ゆっくり話してほしい」、「XXと話していた部分について、もう一度教えてほしい」と直接頼むことも有効です。
また、この業務に関わる他の人とも、この聞き取れないという悩みを共有してみたり、話者がどういうスタンスなのか、どういう意見を言いそうなのか、リサーチしてみたりするのもいいと思います。本人も攻め、周りも攻める感じですね。
ご参考になれば幸いです!
日本会議通訳者協会認定会員。1992年通訳業務を開始。IT、金融、マーケティング、教育、芸術、ファッション、 スポーツ等多様な分野に対応。バイリンガル司会、 ウェビナーのファシリテータも行う。
英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com