【第19回】通訳なんでも質問箱「同時通訳の精度を向上させるには」
「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。
Q:英→日の同時通訳精度を向上させたいのですが、効果的・効率的な勉強方法があったらご教示下さい。英語を聞くことに集中力を奪われ過ぎて、訳出する日本語への気配りが不足しているように感じています。(ピーチさん)
岩瀬和美の回答
A: ”日本語への気配りが不足している”という事実に気づいていらっしゃる時点で、ピーチさんに訳してもらえるスピーカーさんは幸運だと思いますし、その原因が聞くことに集中力が奪われているという分析までされていることからピーチさんの日々の努力が伝わってきます。私も精進せねば!
ところで、先日読んでおりました本で「ことばの美学」という言葉に目が止まりました。イギリスの詩人・文学者であるヴァーノン・リー(1889-1971)の著書『ことばの美学』(1923年)から、以下のように引用されていました。
「ことばの美学」は、ことばの音響的な特徴、意味や文脈、作者の意図などが相互に作用し生み出され、私たちの心を動かし、私たちの世界を豊かにしてくれるものである。
聞いた内容を瞬時に正確に言語化すると同時に、自分の発した言葉の響きや意味を考慮すること。これは日本語に対する配慮であり、私も身につけていきたいと思っています。
「ことばの美学」を学ぶ方法として、私がお勧めするのは:
- いろんな人と会って話をする。自分とは異なる言葉の使い方や響きを学ぶ機会になります。老若男女、津々浦々、多様な言葉に触れていると語彙も増え、表現力も豊かになります。
- 真似をする。好きなタレントさんやスピーカーの表現方法を真似してみたり、人と会って話しているときに相手の話し方を真似してみる。これは瞬発力にも効きそうです。
- 自己表現をする。日記やブログを書いてみたり、スピーチ原稿を作って発表してみるなど、言葉を使って自分の考えや感情を表現してみる。言葉の意味と感情を結びつける力が強化されます。
- 情景描写をする。目に見えているものを言葉で描写してみると、具体的なイメージを情緒的に表現する練習になります。電車の中のポスターや、美術館に行った際に作品を言語化してみるというのも結構頭を使います。
同時通訳の精度向上は、ことばの美学を磨くことで大いに助けられると思います。ことばの響きや意味にも気を配り、”聞き手の心を動かし世界を豊かにする魅力的な同時通訳者”を目指して、お互い頑張りましょう!
山本みどりの回答
ピーチさんのお悩み、とてもよくわかります。私も英日同通は得意ではありません。ピーチさんの質問は、そのまま私の永遠の悩みと重なります。
グローバルスタンダードでは、通訳は、into A Languageで行うとされています。しかし、日本のビジネス通訳の現状では、ウィスパリングで into B Languageで訳すことが多いのではないでしょうか。実践する場が相対的に少ないと、やはり上達もしにくくなってしまいますよね。
英語を聞くことに集中力を奪われすぎてしまうのは、英語を聞いて理解する瞬発力が足りていないからだと思われます。そこで、二つの練習法が効果的でしょう。
1.サイトラをする
B言語の記事をサイトラします。不思議なもので、サイトラをするとリテンションもよくなるし、理解力も上がります。1回に10分でもいいし、一つの記事のほんの一部分でもいいので、定期的な練習を積み上げましょう。自分のサイトラを録音して聞き直して、滑らかに訳せなかった部分を見直すのも効果的でしょう。
2.Podcastなどで大量のインプット、要約、アウトプットをする
長めのコンテンツを耳だけで聞いて、自分なりに理解したことを要約します。それを、家族に聞いてもらうのでもいいし、Twitterに投稿するのでもいいので、何らかの形でアウトプットします。この場合の長めのコンテンツは、30~60分程度のものがお勧めです。流れがあるので、細かいことにとらわれず大筋を理解するのにつながるからです。筆者は個人的にThis American Lifeや、Freakonomics、No Stupid Questionsなどを楽しんで聞いています。まじめに勉強と捉えすぎず、好きだから聞き続けられるコンテンツを見つけることができればしめたもの。
まとめると、3秒の素材に30分格闘するような精読、精聴と、まとまった量の素材を細かいことを気にせずにインプットする多読、多聴をバランスよく実践することが大事です。半年後、一年後、三年後のように長期的な目で効果を見て取り組んでみてください。きっと臨界点を超える日がやってきます!
日本会議通訳者協会認定会員。1992年通訳業務を開始。IT、金融、マーケティング、教育、芸術、ファッション、 スポーツ等多様な分野に対応。バイリンガル司会、 ウェビナーのファシリテータも行う。
英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com