【第1回】シリコンバレー徒然通訳テクノロジーだより「用語をまとめて単語帳アプリで活用する方法」

初めまして!米国サンフランシスコ・シリコンバレーを拠点に活動しているフリーランス会議通訳者の黒田玄と申します。

カリフォルニアは外出禁止令が出て1か月、「活動している」なんて言うとJAROに怒られそうですが…。この時期に精力的にオンラインセミナーなどを開催して下さる JACI の関係者の皆様にお礼を申し上げたいと思います。期せずして訪れた閑散期、通訳者にも通訳者以外の方にも便利で身近なテクノロジーをご紹介するのでお試し頂ければと思います。

さて私は日々、面倒な作業は手抜きしたいと思い、さらにうっかりミスも減らしたいのでテクノロジーの力を借りています。

例えば Tile (thetileapp.com) という小型の Bluetooth キーホルダー。お財布や鍵に付けておけば、家や車の中で見つからなくなった時でもスマホのアプリから音を鳴らして、その音を頼りに発見できる優れものです。逆にキーホルダーのボタンを押すとスマホの音が鳴り、スマホを発見することもできます!
私はもう Tile なしには暮らせない体になってしまいましたが、しっかり者の妹には「お財布や鍵が行方不明になる事が無いから使い道が分からない」と言われました(笑)。

つまり、私が連載でご紹介するテクノロジーもささる派とささらない派がいて、さらに「そんなの知ってるよ」という人も多いと思いますが、結構「こんなことで?」と思うような内容が喜ばれるケースもあるのです。なんせWindows95発売からほぼ四半世紀後の昨年末、ある通訳仲間に Ctrl⁺Z (=元に戻す)を教えたら「今まで何十年も知らなかった!これは皆に教えた方が良いわよ!」と感激された例も。(ご本人の了承を得た実話)Ctrl+Z をご存じない方はググってみてくださいね。きっと感動しますよ。 ですから誰かしらの役に立つと信じています。

では、今回は案件に備えて効率よく用語をまとめる方法と、通訳者に限らず語学以外でも色々覚えたい人にお勧めの単語帳アプリを使い、記憶を強化する方法をご紹介します。

単語帳アプリは色々ありますが、iPhone版、Android版ともに、500円程度で購入できる Flashcards Deluxe (orangeorapple.com/Flashcards) という人気のアプリをご紹介します。
Flashcards Deluxeを使うには、単語と訳語を2列の表計算ソフトの形式(以下 Excel 形式)にする必要があります。

単語帳アプリを使うためには、まず Excel 形式の用語集を作りましょう。用語集の作り方は大きく分けて以下の3通りでしょうか。

  1. 既に用語集がある
  2. 資料がある
  3. 資料がなく、自力でリサーチして用語をまとめる

1.のクライアントから送られてきた用語集が既にある場合(クライアント様~、エージェント様~、ありがたや~)は、Excel形式に整えます。受け取った用語集が元々Excel で作成したような表のPDFファイルの場合には、Adobe ExportPDF (PDFをOffice形式に変換可能なサービス。年間プラン2,400円)などのサービスを使って Excel 形式に変換できます。

紙の印刷物を受け取った場合には、スキャナーもしくはスキャナーアプリで読み込んでデジタル化します。Microsoft Office Lens という無料アプリは、なんとスキャン後のデータをWord ファイルとして OneDrive に保存してくれます。Word ファイル内で表になっているものをコピー&ペーストでExcel形式にできます。実際 Excel ファイルを印刷してスキャンしてみたところ、ほぼ完ぺきにExcelファイルに復元できました。

手書きの資料など、フォーマットが不ぞろいな用語集を自力で入力する時は、音声入力でどんどん読み上げるとタイプする手間が省けます。

2.の「資料がある」場合には、自分で用語を見つけて書き出す代わりにキーワード抽出ソフトを使うのも手です。有料ソフトのInterpretBank (www.interpretbank.com) はネットワークに接続しない状態でキーワード抽出ができるのでセキュリティ面でも安心感があります。他にも PC にインストールするタイプの抽出ソフトも色々あるようです。無料のオンラインやクラウドのサービスなどは機密保持の面で懸念があるのでお気を付けください。ワード抽出機能を活用すれば、前日に数百ページのファイルが送られてきた!という場合でも徹夜せずに頻出用語だけは確認できます。紙の資料が500枚送られてきた場合でもいわゆる自炊テク(紙のデジタル化)を使える人は用語抽出できますね。

3.の自分でリサーチする場合は、ネットで集めた記事をファイルにまとめて2.と同じ方法で用語抽出ができます。YouTube などで直近のカンファレンスが公開されている場合には、文字起こしをファイルに保存すればカンファレンス全部を視聴する必要もなく、後から読み直したり検索したりするのも簡単です。もちろん文字化されたファイルから用語も抽出できます。

また、用語集自体を探したい場合は「○○用語」などのキーワードでググったり、Interpreter’s Help (interpretershelp.com) などの用語集を検索すると、思わぬお宝を拾えることも。
用語が出揃ったら Google スプレッドシートに用語と訳語を貼り付けましょう。これで用語集の出来上がり!

もし案件前夜に数百語の辞書を引く時間なんて無い!という場合には、Google スプレッドシートに用語だけ貼り付けて、その隣の列に =Googletranslate 関数を使うと、Google 翻訳任せの訳語ですがとりあえずの対訳付き用語リストを一瞬で作ることもできます。

図: B列の英訳は Googletranslate 関数で自動生成されています。

さて、用語集が完成したら次に Flashcards Deluxe を使ってスマホの単語帳を試してみましょう。

Flashcards Deluxe は、OneDrive や Dropbox 上のExcelやテキストファイルや、Google スプレッドシートのファイルをアプリの単語帳にダウンロードして変換してくれます。私は管理しやすいGoogle スプレッドシート派です。

アプリの単語帳はスワイプでめくることができ、左方向のスワイプが正解、上方向スワイプは大正解(大正解したらその後しばらく表示しないオプションもあり)、下方向スワイプは不正解です。不正解の単語だけを繰り返して練習することや、単語の表示順をランダムにすることも可能です。
Shared Library という機能では、他の人が作って公開している単語帳をダウンロードできます。日英の通訳ガイドに役立ちそうな単語帳も充実していました。また、Quizlet というサイトの単語帳も利用可能です。

Flashcards Deluxe で特筆すべきなのは読み上げ機能 (TTS, Text to Speech) で、耳から入った情報を変換する必要がある通訳者には有用だと思います。犬の散歩中や仕事への道中に単語を聞きながら脳内変換しています。

上の用語集を以下の動画のように再生してくれます。

https://drive.google.com/file/d/1hbAgSOkl-9KWNsez6pPYGTeHhE_g5RWE/view?usp=sharing

Flashcards Deluxe の詳しい説明や具体的な使い方は、公式ウェブサイトだけではなく YouTube 動画や日本語の説明サイトも沢山ありますので是非ご覧ください。

<おまけ>

通訳テクノロジーともシリコンバレーとも関係ありませんが、外出できないこの時期に実は単語帳アプリよりもお勧めしたいのはシャープ製の自動調理鍋 ”ヘルシオ・ホットクック” (https://jp.sharp/hotcook/)です。

炊飯器のような作りで、蓋の裏側にアーム付いていてかき混ぜながら調理してくれます。材料さえ入れておけば「あとの調理は任せてね♪ピロリーン♪」と宣言し、勝手に料理してくれる可愛いヤツです。コンロに乗せた鍋やフライパンの前につきっきりで食材をかき混ぜたり、火加減を調整したりせずに済むのがこれほど楽だったとは! 使いこなすには多少の練習が必要ですが、慣れたらもうホットクックなしの生活には戻れません。手作り味噌も2日で完成します。アメリカでは Instant Pot などの、圧力鍋・スロークッカー・発酵・電気鍋・炊飯器などを兼ねた電気調理機器があります。こちらもかなり使えます。ホットクックが手に入らない地域の方も何かしらその土地の電気調理器を活用すると楽になるかもしれませんよ。

次回のおまけではルンバやブラーバについて書きたいと思います。本題の通訳に役立つテクノロジーのお題は何にしましょうか…(笑)

それでは、初回記事にお付き合い頂きありがとうございました!次回まで皆様お元気でお過ごし下さい。


黒田玄 (くろだはるか)

慶応大学環境情報学部を卒業後、ソフトウェアエンジニアとして外資系IT企業の開発部門で働いていた時に業務上必要に迫られてやってみた翻訳が楽しくて語学の道へとキャリアチェンジ。 前職経歴やシリコンバレーという拠点の土地柄、スタートアップから大手までIT関係の案件、そして意外と多い製薬や医学関係の案件を中心に活動中。通訳仲間にテクノロジーの活用を広めることを喜びとしている。趣味: ダンス、サッカー、料理(やる気に波あり)、読書。