【第12回】はじめての通訳~通訳と訓練方法に対する誤解「メモって何を書けばいいのですか、速記のことですか?英語でメモをとってもいいのですか?」
答え
基本的には何でも構いません。メモは速記とは違います。英語でメモを取るのも場合によっては可です。
なぜこのような質問が?
この質問は受講生のみならず、現場へ行ったときに一般の方からもよく聞かれます。
気になりますよね、何か書いてあるのか。
初めて通訳講座を受講された方も浮き浮きした調子で「メモ取りを勉強したいです!」とよくおっしゃいます。
ちょっと待った!!メモって本当に必要?
その浮き浮きした調子に水を差すようで申し訳ないのですが、今日の裏テーマは「メモ取りの前にすることがあるんじゃないの?」です。
通訳の授業でよく見られる光景が
音源をかける
⇒条件反射的に一斉にみなメモを取り出す(簡単なスピーチでそんなにメモなんて書かなくていいのに(私の心の声))
⇒受講生にあてて訳出してもらう
⇒「メモが読めないのでわかりません」との答え
(違うんです。分かってないから訳出できないのです(同上))
そこで試しにペンを置いてもらい、メモをとらずに聞いてもらうと案外訳出できたりします。
なぜでしょうか?
⇒一斉に皆メモを取り出すのは、リテンション(記憶保持力)に不安があるからです。
⇒たくさん書けば書くほど聴く方にかたむけるエネルギーが減る
⇒情報を落とす
⇒結果としてメモを見てもわからない、訳出できない
まずやるべきことって?
リプロ訳(記憶訳)です。第6回でも書きましたが、2~3文の訳がメモなしでもしっかりできる、これでようやくメモ取りを始める土台ができたといえます。
言い方を変えると、リプロ訳ができないうちにメモ取りを学習しても聞こえてきた単語だけを羅列して書く、自分のメモを見でも訳ができない、という悪循環に陥ってしまいます。
では、メモに何を書くの?
メモの取り方については数多インターネットに記載されていますので(紙を半分に折るとか、縱書きをするとか)、そちらに譲るとしてここでは2点だけ書きます。
・聞こえた単語を単に書くのではなく、主要な情報を思い出すための最小限の情報を書く
・わかったことだけを書く
例えば話者がりんごはどういう果物か、という話をしたとします。
通訳者は「りんごは赤い果物で…」とメモに書くのではなく話が「りんご」だとイメージできたら「りんご」のおおまかな絵、または「赤い果物」など「りんご」を想起させる言葉をメモに書けばいいのです。
英語で(メモを)取るのも場合によっては可、というのは英単語で複数の意味を有する単語がある場合、一瞬どの意味で言っているか不明なことがあります。その場合に英語で記載しておき、途中で話の流れで意味がわかったときに日本語にします。私は日本語の訳が複数あり「保留」するときに限り英語で記載します。
海外生活が長かった方やネイティブの方は英語でメモを取ることが多いようです。ディクテーションのように英語だけを記載していって後で訳すというごとではありません。一度試みに英語でメモをとったことがありますが(もちろん仕事外でです)、訳出にものすごく時間がかかり、エネルギーを要しました。「英語でメモをとってもいいのですか?」の質問自体メモの本質をわかってないと言わざるを得ません。
どのようにメモ取りの訓練をするのか?
まず日本語→日本語のニュースのメモ取りの練習から始めて下さい。日本語ネイティブであれば聞き取りの問題がなく、メモ取りだけに集中できるからです。
それができるようになったら、今度は英語のニュースを録画/録音し、同様に練習をしてみてください。ここでポイントは、スクリプトがあるニュースにすること。
ニュースを使うのは話の論理、言葉が明確だからです。
ニュース英語である程度安定してメモ取りができるようになれば、実際のスピーチや討論番組といった一つの内容を掘り下げて取り上げているものに挑戦してみましょう。
スピーチや討論番組で日本語→日本語の練習をする場合は、ニュースのように整然と情報が並べられていない場合が多いので、単純に情報をそのままアウトプットするのではなく、英語にした場合、どの順番で訳出すればわかりやすいかを念頭において、情報の並べ替え(整理)も行う訓練も合わせてしてみるといいでしょう。
http://www.hicareer.jp/inter/yarinaoshi/0610/post-9.html
終わりに
まずメモに何を書くか、を考える前に記憶保持力をしっかりきたえてください。
そうすれば、「わかったことをメモに書く」の「わかったこと」「メモに書くべきこと」が明確になってくるはずです。
練習あるのみ!
次回は、通訳の実務に関する質問をとりあげます。
菊池葉子(きくち ようこ)
英語通訳者、英語講師、京都女子大学非常勤講師。2008年通訳デビュー。主な通訳分野は技術、IT, 建築、IR。2011年に通訳学校卒業後、同年通訳学校の講師として稼働開始。主に通訳初心者向けの授業を担当。また、2015年より大学講師として会議通訳演習を担当。受講生からは、最初から順を追って丁寧に指導してもらえる、飽きさせない授業をしてくれる、との評価を受けている。