吉岡余真人「機材エンジニアから見る通訳ブースマナーについて」
この度はこのような執筆の機会をいただき、誠にありがとうございます。
私は1989年(平成元年)から約35年間、通訳機材のエンジニアとして、通訳ブースの隣で、通訳者の皆さんが通訳する音声を最高の音質で参加者に届けるため、日々奮闘しております。
今回は、機材エンジニアから見た通訳ブースマナーについてお話しをしたいと思います。
1.資料の取り扱いについて
皆さん会議が終わったあと、通訳資料の取り扱いはどうされていますか?
うっかりブースに置きっぱなしにしたことはございませんか?
ここで一番困るのは、返却すべき資料なのかどうかです。我々機材エンジニアの方に返却先の指示がある場合は良いのですが、指示がない場合には、通訳エージェントへ返却するか、やむを得ずこちらの方でシュレッダーをかけることもあります。
資料の重要性、個人情報を含む機密性を考慮すると、資料の取り扱いには最後までご注意ください。通訳終了後の資料は、通訳者が責任をもって処理する(お持ち帰りいただく)か、
・提供元であるクライアントお客様へ手渡しで返却
・通訳エージェント会社へ返却、またはコーディネーターが回収する
・その場に置いたまま(処分するのはクライアント会社担当者)
ご確認頂けましたら助かります。
2.ブース内の会話について
通訳ブースは完全防音ではなく、仮設のブースです。
ブース内での通訳者同士の会話は、外に漏れているという認識をお持ちください。
ブース内での携帯電話の通話、資料が出ない、段取りが悪いなどの会話も、近くにいる関係者、ひいてはお客様に聞こえていることがあります。防音は完璧ではなく、外に漏れる可能性があると認識しておいてください。
3.通訳ブースの機材チェックについて
持参したイヤホンを使用する場合に、もしご不安な点がありましたらエンジニアにお声かけください。備え付けではなく、使い慣れたご自身のイヤホンをお使いになる場合に、通常は変換プラグを持参いただけましたら、3.5㎜のイヤホンを同時通訳機器やアンプ標準ジャックに繋げることができます。マイク付きイヤホンなど4極(プラグが4分割)のイヤホンを使用する場合には、通訳ユニットの赤いジャック(マイク兼用)にさすとそのマイクが生きることがあります。エンジニアがいる場合には、ご自身のイヤホンを使用する旨を一言お声かけ頂けると安心です。
本番直前はエンジニアの対応が難しいことがあります。特にイベントの場合には、本番までのカウントダウンが始まっていることもあり最低でも本番30分前が目安です。イヤホンやマイク音声など音声環境をご確認をされる場合は、お早めにお越しいただき確認することをお勧めします。予めご了承いただけますと幸いです。
4.操作ミス、通訳マイクの位置について
エンジニアが通訳者のユニット操作ミスを発見した場合、下記の順番で注意を行います。
・まずは手を上げて注意
・ブースの窓を叩く
・最後にブース内に入り、間違いボタンを訂正(これはかなり最後の手段)
ひと昔前は、通訳ユニットに「Caution」ボタンがあり、エンジニアがそれを押すとユニットが点滅し、注意サインが出る仕組みでしたが、今はなくなってしまいました。通訳者が通訳している最中にエンジニアが通訳ブースに立ち入るのは最終手段ではありますが、その際はご理解のうえ、ご対応いただけますと幸いです。
また、通訳中のマイクとの距離、位置については、JACIのセミナーなど各所で重ねてお伝えしてして参りました。マイクの向きや指向性を理解し、適切な距離を保ち、話すように心がけてください。資料を読み込むうちマイクヘッドが頭の上にきてしまい、机に反射した音を拾うことになると、空調や、換気扇の音も収音するため、折角の通訳音声も遠くから聞こえるような音声になってしまいます。くれぐれもご注意ください。
5.ゴミの処理、忘れ物
終日の通訳など業務で大変お疲れのところではありますが、通訳ブース内にゴミの置き忘れが散見されます。通訳ブースに持ち込む飲み物は、液体がこぼれ機材損傷のリスクを避けるためにも蓋のあるものを基本として、飲み残しはお持ち帰りください。コーヒーカップやサンドイッチのゴミ、資料を挟んでいたクリップなど細々としたゴミの処理には苦慮しています。
通訳ブースに多い忘れものは
ペン、携帯の充電器、イヤホン
です。上記1.資料の置き忘れもふくめ、ご退出時にはいまいちどお確かめください。個人の責任で処理頂きますようよろしくお願いいたします。
以上基本的ではありますが、機材エンジニアから見て知っておいたほうが良いと思われる通訳ブースマナーをお伝えいたしました。コロナ期間中のリモート案件が多かった自宅から、昨今は現場で通訳ブースから通訳する機会が多くなって参りました。ご参考にしていただければ幸いです。
それではこれからの秋の繁忙期、どうぞよろしくお願いいたします。
吉岡余真人
バルビエコーポレーション株式会社代表取締役社長。専門学校卒業後に家業の理髪店を経営するが、オリンピックで開催される国際会議にあこがれて1989年同時通訳機材会社に就職し、東京サミット、APEC大阪、ADB福岡会議などの機材運営に携わる。長野五輪組織委員会渉外部にも在籍し、全会場の同時通訳機材運用を統括。第107回IOC総会、理事会、メインプレスセンター、選手村、IBC国際放送センタースポーツ調停裁判所、医事委員会などの同時通訳機材運用を統括する。その後大手通訳会社にて通訳コーディネーターとして勤務し、社内ベンチャーで機材会社を設立。退職後2005年からは舞台を中国に移し、国際会議ディレクターとして活躍。2008年北京オリンピックでは東京五輪の招致記者会見の通訳・機材の運用に携わり中国および東南アジアでの国際会議を運営する。2017年8月からバルビエコーポレーション株式会社を設立し現在に至る。